文化で地域を活気づける 個性派映画館。

パリと近郊の映画館散策

昨年末、80年の歴史を誇る7区の名物映画館ラ・パゴッドが惜しまれながら閉館した。異色の東洋風建築で在仏日本人にも親しまれてきたが、止まらぬパリの地価高騰の波は映画業界にも深刻な影響を与えている。独立系映画館が苦戦を強いられる一方で、90年代半ば以降は、似た者同士のシネコンのオープンが相次ぎ、飽和状態になりつつある。
だが現在、その先のステップとして、シネコン風の個性派映画館が登場するように。単なる映画館を超え、文化を介し地域を活気づけるという任務も背負っているようだ。そんな産声をあげて間もない個性派の大型映画館を巡る散策に出た。

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洗練された内装 (Les Fauvettes)

まずはパリ南部の13区。イタリー広場からほど近いゴブラン大通りは、今や新しい映画の名所だ。73番地には、無声映画の上映ルームと博物館を備えたパテ財団が2014年の9月に開館(オヴニー778号で紹介)。続いて去る11月6日、今度は58番地に、やはりパテ社が仕掛けたLes Fauvettesがオープンした。こちらは修復された人気の旧作を、一般の新作映画と同じ最新設備で鑑賞するという、世界でもユニークなコンセプトの映画館だ。例えば「ジェームズ・ボンド24本上映」「タランティーノ特集」「ジブリ・パーティ」といったプログラムが並ぶ。モーリス・ピアラ監督「悪魔の陽の下に」の上映時には、監督のパートナーで本作では脚本を担当、現在はプロデューサーとして活躍するシルヴィー・ピアラがゲストで駆けつけた。今や映画はすっかり消費物。「見てはすぐに忘却の彼方へ」の繰り返しにも思えるが、質の高い旧作を修復し、再度新作のように上映して作品の価値を高める振る舞いは貴重だ。 筆者は修復されたスピルバーグの「ジョーズ」を鑑賞したが、大画面で他のお客さんと恐怖を分かち合いつつ鑑賞するのは、当然ながらDVDとは違う感動が味わえ満足感が高い。Les Fauvettesは5つの上映ルームの他、木を基調としたサロンや中庭を併設。趣味の良いお金持ちの友人の別荘に紛れ込んだような、親密な空気が心地よい。ゴブラン大通りの66番地には、従来のシネコンUGC Gobelinsもある。この界隈をぶらぶらするだけで無声映画から少し前の旧作、そして最新作に至るまで、時代を超えた映画旅行が手軽にできるというわけだ。

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赤い色合いが華やかな内装。

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地域住民で集っています。

所変わってパリ東方の郊外モントルイユへ。前世紀初めに映像の魔術師ジョルジュ・メリエスやシャルル・パテのスタジオがあり、映画創世記の昔から映画文化を牽引してきた由緒正しい地域だ。昨年の9月には公営映画館が移転し、再オープンを果たしたことで、にわかに盛り上がりを見せている。映画館Cinéma Le Mélièsは地下鉄駅から徒歩0分。ショッピングセンターが広がり、メリーゴーランドが回る市庁舎広場前にあり、立地は申し分ない。足を踏み入れると、ロビーではメリエスの「月世界旅行」にちなんだ巨大なお月さまの装飾が、来場客を大胆に出迎える。高い天井とヴィヴィットな赤の内装が印象的で、読書スペースとサロンを併せ持つ多機能文化センターといった雰囲気。映画料金も一般で6€と懐に優しい。「こんな映画館が近所にあったらなあ!」と、モントルイユ住民に思わず嫉妬した。
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最後に訪れたのは、環状高速道路にほど近いパリ北東のポルト・デ・リラ。19区と20区の境にあり、さらにル・プレ=サンジェルヴェ、レ・リラ、バニョレなどの郊外の町とも隣接する地域だ。ここに2012年秋、文化でパリと郊外をつなぐ架け橋となるべく、パリ市の後ろ盾のもとで誕生したのが映画館Le cinéma Étoile Lilas。高さ20メートルのキューブが空に浮かぶ大胆設計で、パリには珍しいブラックの外観。夜もふければ映画館の名前が闇に浮かびあがる。7つのスクリーンを持ち、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」のような大作から、子供やシニア向けの上映会まで多様な作品を上映。上映ルームへと向かうガラス張りの窓や屋上のテラスからは、移りゆくパリと郊外の眺望が開けるだろう。また映画館の隣には、やはり市の支援を受けたサーカスのテント小屋が広がる。ここでカンパニーCirque Electriqueなどの定期公演や、サーカス体験アトリエが実施されている。ファミリー向けの企画も用意し、世代を超えた多文化共生の文化基地として、町の新しい価値を発信し続けるのだ。(瑞)
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■ Les Fauvettes

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ゴブラン大通りに誕生した旧作専門館Les Fauvettes。

58 avenue des Gobelins 13e
M° Place d’Italie, Les Gobelins
12€(一般)/8.4€(学生)/4.5€(14歳未満)/ゴーモン・パテの映画パス使用可。

■Cinéma Le Méliès

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地下鉄を出たらすぐの映画館Cinéma Le Méliès。

12 Place Jean Jaurès, 93100 Montreuil
M° Mairie de Montreuil
6€(一般)/5€(年間パス保持者、年間パスは年2€)/4€(割引)/3.5€(毎週金曜12hと火曜の最終回、子供向け映画上映会)

■Le cinéma Étoile Lilas

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高さ20メートルの黒キューブが目印のLe cinéma Étoile Lilas。

Place du Maquis du Vercors 20e
M° Porte des Lilas
10.50€(一般)/8.5€(地元住民、割引)6.5€(学生・18歳未満・朝の回)/5€(15歳未満)/65€(10回の回数券)/ゴーモン・パテの映画パス使用可