北の都リールの郊外クロワに、1932年に完成した邸宅「ヴィラ・カヴロワ」がある。建築家ロベール・マレ・ステヴァンスが設計した、このとてつもなく大きな家は、近代建築の名作として知られています。
1990年歴史的建造物の指定を受けたカヴロワ邸は、2001年に国が買い取り、長い年月をかけた改修工事がようやく終わって、この6月15日に一般公開が始まったばかりです。隣町ルーベの繊維工場経営者ポール・カヴロワがルシー夫人と7人の子どもたちのために建てた家は、建物の面積2400㎡、居住部分の広さが1800㎡という、住宅というよりも城のようなスケールで、建物の外装と同じレンガが敷かれたテラスの向こうには、緑の庭園が視界の彼方まで広がっている。
ブルジョワ家族の優雅な生活の場だった家は、1940年ドイツ軍に接収され、武器庫となってしまう。戦後カヴロワ家に返還された家は、1985年にルシー夫人が世を去ると不動産業者の手に渡って放置され、さらにスクワットもされて、荒れ果てた廃屋になっていたのです。(稲)
取材・構成・文:稲葉宏爾