パリ・ナイトライフの象徴のような〈クレージー・ホース〉、といってもこの種のキャバレーは観光客が行く所で、パリジャンには普通は無縁だ。ところが映画『クレージー・ホース』を観ると絶対に行ってみたくなる。これは優れたPR映画といってもいいが、監督はフレデリック・ワイズマン。ドキュメンタリー映画の巨匠というか、断固たる映画表現を貫く映画作家といった方がよいかも知れない。
解説(ナレーションとか文字情報の追記とか)は皆無で、我々は彼のカメラと一緒に発見の旅に出る。例えば、薄暗い舞台で男が踊っている。振付け師がダンサーに踊ってみせているのだということが間もなく分かるが、この男、踊りがめっぽう上手い。うん? フィリップ・ドゥクフレに似てるな…と思ったが、やっぱり本人だということがだんだんはっきりしてくる。ま、これはドゥクフレを知ってる人には「お〜!」なのだが、そうでなくても観客はこの映画と共にクレージー・ホースがどのように組織され、そこで仕事する人たちの、とりわけ超美しいダンサーのお姉様方の舞台裏などを垣間見ながら、世界の成り立ちの一部を観察する。「私が映画を撮るのは、現実がこのように機能しているんだということを、皆と一緒に考えるためだ」とワイズマンは言っている。
本作は同監督のパリ文化団体シリーズ第3弾で、一作目は『コメディー・フランセーズ』、二作目は『パリ・オペラ座バレエ団』だった。今回は、クレージー・ホース60周年記念(1951-2011)に創作された画期的な『DESIRS』というショーが出来上がってゆく過程が縦軸になっている。ダンス、照明、衣裳、演出家、音楽(フィリップ・カトリーヌの姿も一瞬…)、そしてもちろんダンサーや芸人といったアーティスティック面を追う一方で、資金繰りと制作費のせめぎ合いといった経営面も忘れてはいない。(吉)