パリのアンヌ・イダルゴ市長による自転車に優しい町づくりが、賛否両論を呼んでいる。自転車利用を促し、自動車の交通量を減らすのが目的だが、車線減少による渋滞の悪化や、一部産業への影響が懸念されている。
10月中旬、パリ中心部を東西に走るリヴォリ通りで、市庁舎と地下鉄サン・ポール駅の間の約600mが、一車線となる。自転車専用レーンを整備するためだ。来春までには、バスティーユ広場からコンコルド広場までの約5kmも一車線になる。シャンゼリゼ通りも車線を減らして自転車専用レーンを設置する予定で、来夏工事が始まる。
イダルゴ市長が掲げた自転車に優しい都市整備計画「ヴェロ(自転車)2020」は自転車利用率を、現在の5%から15%へ引き上げることを目指す。予算は1億5千万ユーロで、2015年に市議会で可決している計画では、市内の自動車専用レーンを全長1400kmに拡張し、駐輪スペースを新たに1万台分設置。自動車の制限速度が時速30kmのゾーンも拡大する。パリの東西・南北を走る自転車高速ネットワーク(Réseau express vélo)も整備する考えだ。 リヴォリ通りの一車線化もその一環。
しかし慢性的な渋滞に苦しんでいるパリ市民からは、これらの政策に反対する声も多い。昨年、都心部を走るセーヌ川沿いの通りが遊歩道となり、車両の通行ができなくなったことで、すでに不満が噴出していた。タクシー連盟はリベラシオン紙に「私たちに何の相談もなかったのが問題。道路は私たちの仕事場なのに」と訴える。また小売店は、商品の配送や客足への影響を懸念。郊外から車で通勤する人の多くは、郊外電車RERが、遅延や運転見合わせが多いため、車を使うことも無視すべきでないという意見もある。パリ警視総監すらも8月、ル・モンド紙に「警察車両や緊急車両の走行が妨げられないかを懸念する」と話した。
しかしパリ市は、他の欧州や国内の一部都市に遅れをとっているとして、今後さらに自転車を利用しやすい町づくりを進める考え。9月2日・3日付リベラシオン紙は「自転車闘争だ」との見出しで特集を組んだ。
環境保護のため、自転車を利用しやすい町づくりは将来的に不可欠だろう。しかし業務に支障が及ぶ業種との対話や、公共交通機関のサービス向上を並行して進めなければ、少数の市民と対外イメージのためだけの政策になるだろう。(重)