レ・ヴィキング  -  ズーク以前のグアドループ島の音楽。

20世紀の話。それまでFNACに行けばあらゆるレコードが手に入ると思っていたが、そこに置かれていないものが、バルベスやピガールやシャトー・ルージュで売られていることを知ったのは80年代後半のことだった。マグレブ(カセット)、アフリカ、アンティルの音楽は、その出身者たちの間だけで大きな市場となっているが、大きなメディアや市中のレコード店とは縁のない、独自のルートで流通するもの。フランスの音楽業界ではこの市場をやや蔑んで「ゲットー」と呼んでいた。80年代後半、ラジオ・ノヴァ、リベラシオン紙、アクチュエル誌などの強力な後押しで、ゲットーの音楽が「ワールド・ミュージック」として音楽界の台風の目になってしまった。ズークと呼ばれる仏海外県アンティルのダンス音楽はその一つで、その旗手バンドのカッサヴを称してマイルス・デイヴィスは「これは音楽の未来だ」と言った。

© Jo Renard

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本稿の主役レ・ヴィキング・ド・ラ・グアドループ(以下レ・ヴィキング)は、60年代からグアドループ島の人気バンドであったが、このズーク登場と共に姿を消すという皮肉な経歴がある。ズーク以前のグアドループの音楽は、島出身の愛好家かカリブ音楽のコアなコレクターしかアクセスがかなり難しかったのだが、この4月、隠された良盤復刻で定評のあるヘヴンリー・スウィートネス社からレ・ヴィキングの60年代から80年代までの録音のベスト編集盤が出た。初めて聞く者は50年前の島の音楽がソウル・ジャズに近くグルーヴに富んでいることに驚くだろう。レ・ザンロキュプティーブル誌ジャーナリスト、ダヴィッド・コメイラスの手になるライナー・ノーツは「レ・ヴィキングはグアドループ初のロックスターである。60年代英国ロックにおけるレッド・ツェッペリン、同時期の米国ソウルにおけるジ・インプレッションズと同様に、彼らは慣習に逆らう自由という飛躍を実現したのだ」という書き出しで、大変な持ち上げようである。

慣習破り、型破り、アンチ・コンフォルミスム、これは何事でも刷新するには絶対に必要なことだが、レ・ヴィキングの新しさは島で初めての「スタジアム級」バンドだったということ。一人のメンバーの父親がレッド・スター(ポワン・タ・ピトルのプロサッカーチーム)のオーナーで、試合前のスタジアムを盛り上げるために、このバンドは巨大なアンプを携えて登場し、満員のスタンドを踊り狂わせたのだった。電気増幅のマジックだけではない。島のルーツ音楽グウォ・カ、ビギンのエッセンスを残し、ハイチのコンパ、トリニダードのカリプソ、ジャマイカのメントなど周辺のカリブ音楽、合衆国のジャズとソウルミュージックを融合した大音量ダンス音楽である。このベスト編集盤の1曲めに収められている「アンビアンス」(1967年録音)は、コートジボワールの歌手アメデー・ピエールの「グエ・ユイアモ」のカヴァーであるが、このことについてリーダーのカミーユ・ソプランは「私たちがアフリカからやってきたということを忘れないためだ」と言っている。そういうアフリカ回帰思考もぐっと来るものがある。

前述のダヴィッド・コメイラスの解説は当時の仏海外県アンティルの仏本土(メトロポール)への大量の労働力移出についても言及している。ミシェル・ドブレ(元首相)によって1963年に創設された「海外県移住促進公社」が、本土の労働力不足と海外県の失業者増大を解決するために、本土までの渡航費無料の就職斡旋を展開し、81年に同公社が閉鎖されるまでに、16万人以上のアンティル人が本土に移住したという。奴隷としてアフリカから連れてこられた人々の子孫たちが、再び宗主国の都合で連れ去られる。これをエメ・セゼールは「デポルタシオン(強制移送)」と非難している。皮肉なことに、この海外県から本土への大量移民があったことによって、レ・ヴィキングはメトロポールでも大成功を収め、毎回数万人の島のディアスポラを集客する人気を獲得している。しかし60〜70年代のレ・ヴィキングの快進撃は、本土では島出身者コミュニティの外では誰も知らない。ゲットーの音楽だったのだ。

1979年、レ・ヴィキングの創立メンバーの一人、ピエール・エドゥアール・デシミュスが抜け、「カッサヴ」という新しいバンドを結成する。新しさはたぶんグアドループ+マルチニック両諸島の混合バンドだったことが第一。隣同士の二つの島ながら人々の気質が違い、関係が簡単ではない両島選抜のスーパーグループ。エレクトロニクスを大胆に導入した最新のサウンド。その新しい音楽の名前は「ズーク」。それは両島とメトロポールで電撃的な人気を博し、ゲットーを抜け出し、折しものワールドミュージック・ブームの先駆者として世界的なビッグネームになっていく。これを前にして、レ・ヴィキングは完全に取り残されてしまったのである。

50年後、レ・ヴィキングはカミーユ・ソプラン(リーダー、サックス奏者)、ギ・ジャッケ(ギター)、マックス・セヴラン(ヴォーカル)の歴史的メンバー3人を中心に再結成して、古き良きカリビアン・グルーヴを再演している。メトロポールでは5月28日と29日、パリ・ゼニットで、因縁のカッサヴの前座として登場する。

文・向風三郎

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この4月にヘヴンリー・スウィートネス社から出た、レ・ヴィキングの60年代から80年代までの録音のベスト編集盤

 


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