5月26日の欧州議会議員選挙でマリーヌ・ルペンの右翼国民連合(RN)が予想されていたように得票率23.4%で、初の選挙を迎えたマクロンの共和国前進・中道(LREM)22.3%を抜いてトップに。RNの大波に押し流されながらも、予期しなかったジャドEU議員率いるエコロジー党が13.5%を得て3位にのし上がった。
シラクがRPR(1976-02)に継いで、02年に右派諸党をまとめて UMP(大衆運動連合)を立ち上げ、2015年にサルコジ元大統領が共和党と改名しドゴール主義を掲げてきた。それを2017年にヴォキエ総裁が引き継いだのだが、同選挙で8.5%という、先代サルコジにも顔向けできない悲惨な惨敗を喫し、党内でも辞任が叫ばれていた。
6月2日、テレビでヴォキエ総裁は悲愴な面持ちで総裁辞任を宣言した。次期総裁はペクレス=イル・ド・フランス地域圏会議長? と噂されていた矢先、その1週間後、彼女もテレビで共和党からの離党を宣言。「党の硬直化と内部分裂に耐えられず辞任し、内部の改革よりも外部からの改革が必要」と発表。ヴォキエ前総裁にポピュリスト色が増し、ルペンとの違いも大してなくなり、RNにかなりの共和党支持者票が移ったのも確か。
昨年以来、高まっている高校生や若者たちのエコロジー志向を反映し、グリーンピース元活動家ジャド党首率いるヨーロッパ・エコロジー=緑の党(EELV)が今後の仏政界を変えていくのではと見られており、どの政党もスローガンにエコロジーを加えている。社会党から出たグルックスマン(6.2%)の「共和国広場」もスローガンの末尾にエコロジーという言葉を加えている。しかし40年以来、左右2大政党が支配してきた仏政界に大地震に匹敵する異変が起きている。
保守派議員・市長村長ら72人がマクロン支持宣言。
ヴォキエ総裁辞任の余波はまだ続く。今まで政府案に反対するのが野党議員の務めとされてきた保守議員を含む県会議員・市町村長72人が、連名で6月9日付ジュルナル・デュ・ディマンシュ紙の論壇頁にマクロン政権支持を表明した。議会で反対票稼ぎのコマであり続けることを拒否し、空洞化した保守諸党を去りマクロン派に鞍替えする。その裏には来年の市町村選挙まで先細りし続け、いつ消滅するか分からない共和党などの保守諸党に所属するよりも、マクロンに付いた方が利口との判断が動いたようだ。
マリーヌ・ルペンが大統領になれる可能性が大きくなっている今日、彼女がフランスの大統領になるのを阻むには、マクロン派が第1党にならなければならないという危機感も手伝って、マクロン支持現象が生まれているのでは。この動きはまだ続きそうだ。マクロン陣営も年頭以来、保守派政治家に誘いの声をかけていたものの、まさかこれだけの数の地方議員が共和国前進党に流れ込んでくるとは想像もしなかっただろう。
実を言えば、ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)運動の脅威を前に、1月からマクロンが始めた地方住民・市町村長など、合わせると数万、数十万人の地元民の前でマクロンが孤軍奮闘して回った討論会の種が今、その成果が芽を出し実を結び、村長・市長たちは大統領との具体的な対話、意見交換を通してマクロンの具体的な政治姿勢が伝わったからなのだろう。
金持ちの大統領と見なされてきたマクロン大統領に欠けていた保守派の地方政治家たちがLREMになびいてきているのだ。しかし右でも左でもない政党として2年半前、大統領になる前にマクロンが創立した共和国前進に保守派が多く加われば、党内での中道左派との均衡が崩れるのではないかという危惧がなくもない。
社会党も共和党も、共産党も極左「屈しないフランス」もマイナーな政党に弱体化し、ルペンの国民連合とマクロンの共和国前進の2大政党が残り、ゆくゆくはアメリカの民主党と共和党の2党体制に近づいていくようで、市民は次期大統領選でマクロンかルペンか、主に中道左派からなるリベラル派マクロンか、移民・EU反対を唱える仏版トランプ、ルペンかの選択を迫られるようになのかもしれない。