欧州連合のルネサンスは可能か。

 

ストラスルブールの欧州議会

34党派にのぼる立候補者がひしめく欧州議会議員選挙。

 前代未聞の多党雑居の34党派にのぼる立候補者リストが5月26日の投票日に票の取り合いを繰り広げるわけだが、EU選挙を身近に感じない市民は無関心になりがち 。2014年前選挙の棄権率は56%だった。2年前に大統領になったマクロンが創立した共和国前進党(LREM)にとっても、マクロン大統領にとっても初の投票という洗礼を受けるだけに与党とマクロン現政権の試金石に当たる。

 英国の EU離脱(ブレグジット)期限は10月31日に決まり、このEU選挙に英国も参加するので仏議席数は79席にならずに従来の74議席。下記の党派から計79人の議員が選ばれ、 最後の5人は英国がEUを離脱した後に正式に議員となる。ただ得票率が全体の5%以下の党派は排除される。

 比例制のEU選挙の立候補者リストは、ナショナリストからエコロジスト、フェミニストまで34の雑居多党派選挙だ。立候補者リスト数を類別に見てみよう。

フェミニスト(1)、ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)はノンポリを自評してきたが(4)、極右ナショナリスト(3)、エコロジスト(ジャド緑の党他3)、社会党左派(アモン他1) 、極左(メランション他1)、極右(ルペン他3)、中道派(LREM他1)、右派共和党(1)、無所属(11)。

各党派リストは79人まで立候補でき、リストが得票率20%を獲得すれば、その党派は17〜23人の議員をEU議会に送り込むことができる。

 

欧州議会の仕組み。

 EU議会は計751人の議員からなる。その中で、共通の主義・思想を分かつ議員グループに属さないと、発言権も与えられない。またグループをなすには、28カ国のうち7カ国からの計25人の議員が必要だ。2014年に当選した国民連合のマリーヌ・ルペンは、難民排斥を叫ぶイタリアのサルビーニ内相やハンガリーのオルバン首相らと意気投合し、両国のEU議員を含む極右ナショナリスト・グループを形成するまでに1年を要している。

 EU議会議長を一国の首相に例えれば、内閣に当たる委員会は委員長以下、文化から農・漁業、環境、医療、教育、商業、税制、移民、防衛まで多岐にわたる27部門を担当する委員(コミッショナー)が法案を提案し、EU議会に提出される。フランスはオランド大統領が推したモスコヴィシ元経済相がEU経済担当委員を務めてきた。ブリュッセルに本拠を置くEU委員会は、市民の目にはテクノクラートの集まりとみなされてきた。

 

欧州連合の危機。

 近年、死を賭して地中海を渡りイタリア沖に流れ着くアフリカからの難民や移民をドイツのメルケル首相が一挙に百万人を受け入れて以来、EU諸国の争点は難民受け入れの割当問題に集中してきた。難民受け入れを拒否するハンガリーなどは、国境沿いにフェンスを設置し、トランプ大統領のメキシコからの不法入国者締め出しのフェンスの欧州版を設置するまでに。東欧諸国のこのようなナショナリストのエゴイズムが表面化する中で、ドイツにもネオナチの動きが鮮明に。

 メルケル政権も移民政策で分裂を見せており、昨年10月、メルケル首相は2021年に首相退任を表明している。サルコジ大統領以来、仲のいい独仏カップルとしてEUの大黒柱の片腕を演じてきた仏大統領も、メルケル政権の先の短い立場からくる消極性から以前のように二人三脚の協力態勢も望めなくなっている。

 その上、フランスで昨年11月以来続く反マクロン運動、ジレ・ジョーヌ運動でマクロン大統領もめっきり影が薄れ、34もの立候補者リストのスローガンは揃って「マクロンを倒せ」。マリーヌ・ルペンなどは、「1969年の国民投票で敗れて退任したドゴールのように、マクロンも退任すべき」と主張し、同選挙で「マクロンか政権交代か」の選択を迫る国民投票とみなす。IFOPの世論調査(5/10)による予想得票率は、マクロン派22.75%に対しルペン派21.75%。

 

マクロン大統領は欧州連合の再構築、ルネサンスを提唱するが。

 ブレグジットと共に東欧諸国でのナショナリズムとEU懐疑主義が深まる中、マクロン大統領が以前のようなEUのリーダーシップを保持しようにも孤立化は防ぎようもない。分裂が続くEUの崩壊を狙っているのは、極右・元トランプ選挙対策本部長スティーブン・バノン。ホワイトハウス後、ブレグジット運動にも関わり、反EU運動を煽ったのもバノンだ。彼は欧州諸国のナショナリスト運動を支援して回る。中でも欧州の極右ナショナリスト運動のリーダーとして、バノンが期待を寄せているのは国民連合のマリーヌ・ルペン。

 トランプの背後に控える米億万長者らの財源を利用し、地球規模の極右ナショナリスト運動の総指揮者になりつつあるバノンにとって、迷える欧州のポピュリスト系ナショナリストを手なづけることはいとも簡単だ。イデオロギーもカネでどうにでもなるということはトランプが見せてくれたことだ。

「EUの改善、改革の前に、EUは維持されなければならない:欧州議会が生まれたのは1979年、戦後40年後のことである。それより40年前の 1939年には欧州の戦禍の中で若者の世代が互いに殺し合った時代だった。第2次大戦で5500万人の命が失われた。……この教訓を無関心または憎悪に委ねて忘れるようなことがあってはならない」とは、イタリア人タイヤーニEU議会議長の言葉。(1月 ルモンド紙掲載)

 仏メディアにジュピターと呼ばれているマクロンだが、彼はEUの「ルネサンス」を標榜し、「再構築」の必要性を認める。ロシアのプーチン大統領を差し置いて、世界をカネと軍事力で二分しようとしているトランプと習近平中国主席には、欧州という箱庭の中の果たせぬ夢くらいに見られているのではなかろうか。