ラクタリス製粉乳スキャンダル

昨年12月上旬から今年1月9日までに37人の乳児がサルモネア菌に感染し、全国のスーパーや薬局からラクタリス製粉乳の回収措置が取られたが、年末セールと重なったため、その撤去が徹底せず、ル・モンド紙(18-1-13)によると、スーパーや薬局約90店(カルフールなどは回収通達後も434個、オーシャンは52個、Uチェーンに384個)の商品棚に残っていたといわれ、消費者たちの間に不安が増大。ロワール地方はマイエンヌ県クラオン村にあるラクタリス工場の労働者250人を自宅待機にし、約80人が工場内の清掃にあたっているという。

世界屈指のラクタリス・グループ
ラクタリス社(年商190億ユーロ)は、ネスレ(145億ユーロ)を抜いて世界一の乳製品メーカー。チーズ(Président, Bridel 他)36%、牛乳(Lactel 他)25%、バター・クリーム(Président, Bridel)11%、粉乳(Picot, Celia)7%、その他7%という製品構成。

雇用数も世界56カ国に計7万5千人(仏国内1万5千人)。08年スイスのBAERチーズを買収、10年スペインの3社(FORLASA、PULEVA、SANUTRI)を、11年イタリアのPARMALAの83%を買収、14年インドのTirumala Milkも買収…と乳製品の王者にのし上がる。

しかしテレビの報道でも問題になっているのは、ラクタリス・グループが、一度も経財省に決算報告を提出していないということだ。オランド政権が発布したサパン法には、大企業に毎年決算を報告すべしという規則があり、違反企業には罰金を課す法があるが、ラクタリスのエマニュエル・ベニエ社長は罰金を払った方が安上がりと高をくぐるので有名。

酪農家たちがラクタリスと衝突
16 年は酪農業者の大規模なデモに彩られた年だった。15年に欧州連合が牛乳生産量のクオータ制を廃止したのはよかったのだが、中国による仏産牛乳輸入停止とロシアに対する経済制裁による食料品の輸出停止政策の影響をもろに受けたのは、フランスの酪農業者だった。それにより乳製品が国内にだぶつき、14年に牛乳千リットルが365 ユーロだったのが、一挙に275ユーロにまで急落し、ラクタリスは290ユーロでしか買い上げず、生産者価格を値切るので有名。酪農業者にとって、千リットルの牛乳の生産費は最低374ユーロかかるというのだ。これでは生産すればするほど、千リットルにつき100ユーロずつ損することになる。つまり彼らの給与は1ユーロも出ないのである。17年2月25日にも47歳の酪農家女性が自殺したように同年5月中旬から9月までの間にノルマンディー地域の酪農業者の自殺が6件にのぼっている。

利潤はどこに行ってしまうのか
ラクタリス社は、チーズ作りの家内工業時代から、2000 年に3代目社長となった今のエマニュエル・ベニエ社長(47歳)まで、常に家族経営体質を保ってきた。上場しておらず、昔から決算を外部に公表するようなことはなく、内々で処理してきたのだ。したがって酪農業者組合や乳業共同組合が牛乳価格の引上げを要求したくても、どれだけの額を要求できるのかもわからない。

ベニエ社長はマイエンヌ県アントラム村にヴァロン城を所有し、ブルターニュのレ島に別荘、クールシュヴェルに山小屋別荘を持ち、地元の大企業家の娘と結婚し子供3人。社長は組合やメディアを毛嫌いしインタビューには一切応じない。数年前に国営テレビが邸宅や家族を取材した報道をプライバシー侵害で告訴したほど。したがってラクタリスという巨大企業の奥に身を隠す社長。

ソディアル
乳業共同組合ソディアル(SODIAAL)は、欧州4位の規模をもち、全国71県の1万2500 の酪農業者から牛乳を回収している。年間48億リットル(全国20% )、年商54億ユーロ、そのうちの25%は輸出。はたしてソディアルがラクタリスに対抗できるか。または1リットルの牛乳価格が数サンチーム上がっても消費者直結の流通組織を作りだす必要があるようだ。

Share on :