フランスには、子どもから大人まで自閉症(autisteオティスト)の人は約65万人(人口の1%)いる。自閉症児の80%は入学できず、家庭で面倒を見ざるをえない親たちの苦情をよくテレビ報道などで耳にする。フランスはEUの他の国に比べこの分野の遅れが著しく、これまでに何度も欧州人権裁判所から指摘されている。4月5日、ルーアンの大学病院の自閉症患者病棟を訪れたマクロン大統領は、自閉症対策のため5年間で3億4000 万ユーロの特別予算を組むと表明し、シラク大統領がガン対策を優先課題にしたように、自閉症対策はマクロン政権の重要課題に。
マクロン大統領の高校時代にブリジット夫人が教師だった彼のクラスに自閉症の女生徒がいたことから、自閉症の問題はマクロン大統領夫妻にとって個人的な思い入れがある。ブリジット夫人のもとに毎日50通からの、自閉症児をもつ親からの手紙が届いているという。
自閉症患者受入れ施設の不足
子どもが1歳から2歳半になっても言葉が出ず、目の焦点も定まらず、小児科医に「知的障害のある自閉症ですね」と診断された親の絶望感は如何ばかり。仏国内の心身障害者受入れ施設の不足から、ベルギー南部ワロン地域にある療育施設は、フランスからの自閉症児やダウン症児(trisomie 21:毎年約2300人が新たにダウン症と診断される)をもろ手をあげて迎えているという定評があり、80年代に仏人利用者は仏北部から行く1500人くらいだったのが、今日では8000人の仏人障害者が利用しているという。例えばワロン地域の片田舎に13軒ある民間療育施設の利用者450人のうち350人はフランス人が占めているというから、フランスの療育施設の不足を埋める下請け産業化が進む。問題は、両国の医療・衛生管理局による検査がどこまで行き届くかだ。
ちなみにフランスの療育施設は1日200 〜400ユーロ、ベルギーは150 〜180ユーロ、朝5時起きしてタクシーでパリ地域から通う場合、片道180ユーロはかかる。もちろん費用は全額医療保険と県が負担する。施設にいる子どもと定期的に会えるように、地方から仏ベルギー国境付近に引越しする家族が多いのはそのためでもある。この活動に味をしめたワロン地域には民間の療育施設が雨後のタケノコのように増えており、別名「フランス人施設」とも呼ばれている。こうして仏保健省は年間6500万ユーロを主に同地域の療育施設に払い込んでいる(国内の同分野の費用総額は90億ユーロ)。
心身障害者と共存する社会に。
マクロン大統領の公約の一つは「心身障害児の全員が普通校に通学できるように補助員のポストを保証する」だった。昨年9月には1万1200人のパート職の補助員が採用された。30万人にのぼる障害児が普通校に入学し、そのうちの16万4000人は教室で付添補助員を必要とする。さらに3000人の障害児は補助員が不足しているため通学できないでいる。彼らの中には、ベルギー送りになる少年少女がかなりいるのだろう。
最近メディアやドキュメンタリーに出てくるのは、義務教育終了後、自閉症やダウン症を克服してレストランの給仕やパン職人になった若い労働者の必死にがんばっている姿だ。これこそが、障害がありながらも普通の教育を受け、普通の社会人になるという理想像なのだろう。
マクロン大統領の自閉症関係の重要課題は、療育施設の増設と付添補助員養成の充実化だろう。問題は、それも叶わず最終的に地方の精神病院に閉じ込められる重症患者もいることだ。