パリのホームレスはだいたい歩道脇か、サン・マルタン河岸にテントを張って過ごすのだが、現在全国に約12万人、イル・ド・フランスに約9万2千人(2015年比、1万2千人増加)が夜間宿泊施設を利用している。フランスでは借家人が家賃不払いでも冬期11月1日から3月16日まで家主は借家人を追い出せない。それ以外の時期に貸家を追い出された者(08年には5万9千件の強制退去命令)や、長期失業や離婚による家庭崩壊によりSDF(Sans Domicile Fixe)になる50〜60代の中高年層のホームレスが増えている。そこで冬期の間だけでも2870人分の簡易宿舎(昨年は1100人分)が増設される。英国に渡ろうと、カレーの荒れ地「ジャングル」にテントを張った1万人にのぼる難民の全国収容施設への配分問題とは別に、長期化するホームレスたちの受入れ施設の増設も問題となっている。パリだけで毎日80〜100人の難民(10月末までに3200人)が押し寄せているなかで、SDFと難民の宿泊施設の取り合いはいまのところ見られないよう。
パリ市イダルゴ市長の肝入りで、パリ西部の高級地ブローニュの森に沿う敷地に11月初めにオープンしたばかりのSDF用木造住宅(アソシエーション・オロールが管理する)が、11月5日から6日にかけて放火され建物の一部が損傷した。それより3週間前の10月17日にも同様に建設中のこの住居に火が付けられ、ぼやが起きている。しかしすでに50人(親27人+子供24人)が居住し、200人を受け入れる予定。が、今年3月に4万人の住民がSDF住居への反対署名運動を起こしている。彼らの言い分は、SDFが住むようになると「地域が荒廃する」「強盗が増える」「地価が落ちる」「危険が増える」など、ブルジョワ婦人が愛犬を散歩させるシックな地区をアフリカ人移民家族が行き交うイメージに耐えられないようだ。
フランス人の貧困者に対する見方は、生活条件観察研究所(Crédoc)の統計によると、キリスト教徒的体質からか1978年くらいまでは、貧困者に対して「かわいそうに、貧困から出られなくて」という同情心が見られたのだが、2008年の経済危機後は、貧困者に厳しい目が向けられるようになり、「努力が足りないからだ」という競争社会が定着。今年6月の同研究所の3千人を対象にしたアンケートによると、30% が「貧困から出る努力をしないから」と答えている。1995年にはその率は25%にすぎなかったという。この夏、カンヌやニース、フレジュス、コルマール、トゥール、エックス・アン・プロヴァンスなど観光的な町ではSDFの徘徊を禁じている。こうしたなかで、各地の収容施設に分散された子供を含む計1万8千人の難民とSDFがなすフランス社会の最底辺のプロレタリアにもなれない貧困階級が浮かび上がってきている。
昔からパリの浮浪者のイメージとして、セーヌの橋の下に這いつくばる姿が一般的だったが、SDFになっても自分の指定住所があるかないかで、活動的連帯手当(RSA)や高齢年金、住居手当など様々な社会保障にもあやかれない幽霊市民となる。2016年9月以降、全国の県庁は人口3万人以上の町にいるホームレスの資料を管理することが義務付けられるようになった。しかし1件につき対応費用が年平均77ユーロかかるという。