同性婚から人工授精(PMA)、代理母出産(GPA)にまで進むか。

 フランスは2013年に同性婚法が成立して以来、同姓のカップルや独身女性も子どもを持つ権利があるという考え方が広がっている。9月下旬、国立倫理諮問委員会(CCNE)は、「レズカップルも独身女性も平等に人工授精(PMA:Procreation Medicalement Assisté)を受けることは問題ない」という見解を明らかにした。この問題を含む人工授精(PMA)に関する法案は年末に国会に提出され、2019年から審議が始まる予定だ。

 フランスの現行法では、人工授精(PMA)は、不妊症や無精子症などの問題を抱えるカップルに限定されているが、ベルギーやスイスではそうした限定がない。レズ女性やホモ男性が結婚できるようになった今日、彼らにも子どもを持つ権利があるとする平等論者と、子どもには母と父が不可欠という伝統的保守派の衝突が起きるのは目に見えている。フリーペーパー「20minutes」(18-10-2)によれば、2014年トゥールーズの病院の医師がレズ女性の人工授精を拒否したことで2018年7月始め、二人の女性は国務院に訴えた。10 月上旬、 国務院 は「PMA は差別でも不平等でもない」と判定を下した。

ホモカップルにも子どもを。

 特にホモカップルが求める代理母による出産(GPA:Gestation pour Autrui)が問題視されているのは、アメリカやインドで広まっている代理母による出産・胎児の商品化とそれによる優生主義だ。代理母を必要とするGPAはマクロン大統領もビュザン保健相も反対している。一方、精子保存研究センターは、精子提供者が同意するなら、提供者の匿名性を廃止してもよいのではないかという意見も。1970年以来、フランスで試験管ベビーとして生まれた子どもは5~7万人いる。彼らの中には精子提供者の匿名性を廃止する運動を始めている者もいる。彼らの20% は成人時に親に事実を知らされたという。だが生涯、自分の半分が未知であるというトラウマに悩む人もいる。

最近フランスで話題になっている手や腕のない新生児の出産。

 日本でなら1950年代に発生したメチル水銀による代表的な公害病、水俣病患者の奇形児出産を思い出さずにはいられない。フランスで最近話題になっているのは、仏南部のアン県や西部地方ペイ・ド・ラ・ロワール、ロワール・アトランティック地方の農業地帯に集中している手や腕の欠けた新生児の出生を含めると、この数年で全国で約150 件にのぼる。そのほか食道の閉鎖症や合指症、ヘルニア、自閉症、内臓疾患など妊娠中にエコグラフィーで検視できない病気を抱える新生児の出生も無視できない。奇形児出産は産婦人科医にもその原因が分っていない。手や腕のない子や片足が異常に短い新生児の出生が、先に挙げた地域に集中していることは、除草肥料グリホサートや他の農薬に日常的に接する機会の多い環境に起因しているのではないか。ここで問題にしたいのは、ル・モンド紙(18-9-25) が話題にしていた「環境汚染による出生率の低下」だ。西洋諸国の男性の精液の濃度が50~60%低下しているというのも、農薬による環境汚染が影響しているのではないかと見られている。こうした状況のなかで、フランスでビオ(オーガニック)食品の需要が伸びているのもうなずける。 

医師の「良心条項」
 上記のトゥールーズ病院でのレズ女性への人工授精を医師が拒否した例の他に、人工中絶を拒否する医師もいる。今日、避妊薬が流通していても国内の中絶は年間21万7千件にのぼる。フランスではどの病院でも簡単に中絶手術をしてくれるわけではなく、1975年ヴェイユ法により中絶が解禁になったものの、1947年に制定された医師倫理規定にある「Clause de conscience」(良心条項)を盾に中絶手術を拒否する医師がいるということだ。国立病院の医師は公務員であっても自分の良心や宗教に従って手術することを拒否でき他の医師にまわすことができるのである。家族計画団体(プラニング・ファミリアル)などは、この「良心条項」を廃止すべきという署名運動を行い、すでに5万人が署名。社会党議員らもこの法案を議会に提出している。保守的な医療界で今後、レズ女性や独身女性のPMAの合法化 は時間の問題としても、男女平等論によるGPAの実現への道は長そう。同性婚に続く運動はこれからなのだ。