次期大統領選を2カ月半後に控え、2月5日リヨンで開催された党大会で国民戦線党FNの大統領選候補マリーヌ・ルペンが144の公約を発表した。まず憲法に「フランス人を優先する」を加えること。彼女のスローガン、「自由」「安全」「繁栄」「公正」「誇り」「大国」「安定」とは、トランプが「アメリカ! アメリカ!」と叫んだのとあまりにも似ている。共通点は外国人排斥姿勢だろう。昔からルペン派が公約「フランス人のためのフランス」を掲げてきたように。
〈移民対策〉
「吸水ポンプのように移民を吸い込む」のではなく、移民の受入れ数を年間1万人に制限し、不法滞在者は自動的に国外退去にする。不法滞在者の正規滞在化や帰化は不許可。フランスで生まれた外国人の子供の生地主義による仏国籍取得を廃止(EU以外の外国人の二重国籍取得も廃止)、結婚による自動的仏国籍取得も廃止。亡命申請は祖国か隣国の仏大使館で行い、仏国内での申請は不可。
〈仏国籍者優先〉
外国人を雇用する企業に課税し、低家賃公営住宅HLMの入居は仏国籍者を優先する。家族手当や他の手当は仏国籍者だけに支給。移民の家族呼び寄せを禁止。外国人就労者が社会保障を受けるには、社会保険を負担していても2年以上の滞在が必要(フィヨン共和党候補も同じ公約)。不法滞在者の子供の公立校の学費を有料化。
〈愛国的保護主義によるEU離脱〉
EU離脱を決めた英国のようにフランスのEU離脱のための国民投票を実施する。しかし投票結果が「ノー」になっても、シェンゲン協定(EU国間の国境廃止)から脱し、6千人の税関吏を配置し、入国者のコントロールを強化する。EU離脱となれば必然的に通貨をユーロからフランス固有のフランに戻すことになる。本当にそうなったら、フランに戻すには少なくても30%の平価切下げにより年間70億フランが国民の負担に。それだけでなくユーロ建の国債(国内総生産GDPの60%は外資による)、民間企業の負債額も合わせ、平価切下げになったらフランで返済することになり、ルペンは平価切下げ後の膨大な負債額の返済を全部国立銀行に任せるというが、急激なインフレと購買力の急低下などは頭にないようだ。そしてフランにしたら、グローバリゼーションの逆をいくことになり国内産業が停滞し、失業率がイタリアやギリシャ並みになるのは火を見るより明らか。
〈社会保障〉
サルコジ時代に定年が62歳に引き上げられたのを60歳に下げ、年金保険の負担期間を最高42年から40年に短縮、最低賃金税込1480ユーロに200 ユーロ加算し(上限1.4倍額)、月収1500ユーロ 未満の労働者や年金生活者に80ユーロの特別手当を支給、中小企業の法人事業税率を現行の33% を24%に下げるなど、庶民や年金生活者、中小企業主を喜ばせる保障政策が盛り沢山。この大風呂敷の社会政策費を何で工面するかというと、輸入税を3%増税し、外国人雇用課税の上がりなどでまかない、所得税を10%引き上げるなど。しかし経済学者たちは、まるで計算がでたらめで、FN支持者を喜ばせるための狂気の非現実的公約とみなす。
〈徴兵制度の復活〉
2015年にオランド大統領が拡大して施行した、6カ月の市民用役や有志徴兵制ではなく、シラク大統領が20年前に廃止した徴兵制を復活させ、最初は男女に3カ月の準徴兵を課し段階的に昔の徴兵制を復活。国防費も国家予算の1.78%から3%に引き上げ、兵士を5万人増員、同時に警官・憲兵を1万5千人、拘置所の看守を4万人増員。ちなみに警官や兵士などの56% はマリーヌ・ルペンを支持しているのである。
〈死刑の代りに終身刑〉
マリーヌ・ルペンは、2012年大統領選で死刑を復活させるための国民投票を提案し、2015年にも再燃させたが、FN党内で賛否両論が対立し、いまは重罪犯の減刑や恩赦などはせずに「実質無期懲役刑」にすべきだと説く。
最後に付け加えておきたいのは、フィヨン共和党候補が妻の架空雇用疑惑ペネロープゲートに振りまわされているなか、マリーヌ・ルペンもこの種の疑惑から逃れられない。EU議会議員であるルペンは、ストラスブールの欧州議会への出席率30%という欠席常習議員の筆頭にあり、常時FN党本部にいる2人の部下をEU議会付属の秘書と自分の護衛という名目で給与合計34万ユーロをEU議会から支払わせた。同議会はこの架空雇用給与額をルペン議員の報酬から差し引く方針。それだけではない、2012年大統領選運動費疑惑に関し、数人のFN党幹部の裁判が控えている。政治家とお金が切っても切り離せないのはどこの国でも同じようだ。