フランス初の麻薬注入室開設。

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 フランスの大麻(cannabis)常用者の増加*は言うまでもなく、コカインやヘロインの多量摂取による欧州での死者は年間約6100人(2012年)にのぼる。今日、フランスのエコロジー派のなかには、1970年麻薬禁止法を解禁すべしという声が上がっている。30年前から、麻薬の弊害への対応策として、ドイツを初めスイス、カナダ、スペイン、デンマーク、ノルウェー、ルクセンブルグ、オランダなど30カ国が麻薬を自由化し、麻薬注入室も開設している。それによりオーバードーズ死が半減したと言われている。それまではこれらの国の大都会の路上や片隅で麻薬中毒者は、注射器を回しながらヘロインやコカインを腕や脚に注入していたものだ。

 感染学週刊誌AFSSAPS(2010-10-16)によれば、フランスではヘロインとコカインだけでも、そのオーバードーズ(多量摂取)により08年には113人が死亡しているという。が、フランスは英国の麻薬による死亡者数の6分の1、ドイツの5分の1というから、隣国の麻薬禍とは比較にならない。

 こうした各国の対策にもかかわらず、フランスは保守派の麻薬に対する警戒心にあおられ、麻薬注入室の開設は遅々と進まなかった。94年に実験的にモンペリエに注入室が開設されたが、オーバードーズ死が生じ、1年後に閉鎖された。90年代は麻薬注射器だけでなくエイズによる死亡者数が急増した

 赤十字や世界医師団などは巡回バスで無料注射器の配付と車内での注入を許可してきたものの、しかしこれ以上、とくに貧困層に目立つオーバードーズ死を傍観してはいられず、トゥレンヌ健康相とイダルゴ=パリ市長が、10月11日、北駅隣接のラリボワジエール総合病院(4 rue Ambroise-Paré 10e)の一角に注入室(Salle de shoot)を開設した。北駅周辺はパリで一番麻薬中毒者が多い地区とみられている。注入者用の数席と麻薬の吸入室を設け、年中無休で毎日(13h30-20h30h)開いており、 各自注入時間は20分。毎日平均150〜200人を受け入れる。ただし、利用者は自分で薬物を持参すること。パリではヘロインは高価なので、代替薬Skénan(モルヒネの一種)やSubutex(1錠約5€)で間に合わせる者が多い。注入室に来る中毒者は1回の摂取量が限られており、薬物を持参して来ても麻薬禁止法にはひっかからない。注入室関係者は麻薬常用者の健康管理と社会復帰の世話もすることで中毒者の生活改善に努めるという。しかしあくまでもこの注入室の試験期間を6年とし、その効果や近隣住民の反応によって常設化されるかが決まる。近所のアパルトマンの窓には〈Non à la Salle de shoot注入室に反対〉の横幕が吊るされている。4月にも400人余の住民が10 区の区役所で反対集会を開いていた。

 このほかにドイツやスイスにも近いストラスブールには1カ月後の11月から注入室と吸入室が開設される。駅から歩いて15 分くらいの所にある総合病院 Hôpital Civilの1室に注入席8 席が設けられ、1日平均80人を受け入れる体勢だ。こちらの注入時間は30分。年中無休13h-19h。

*大麻喫煙率:常用者140万人、たまに吸う460万人、試したことがある1700万人。若者(17歳)の常用者9%、試したことがある48%(18-64歳:42%)。