5月9日付け情報サイト、メディアパールと国営ラジオ、フランス・アンテールのインタビューで8人の女性政治家や秘書らが欧州緑の党議員、それも国民議会副議長ドゥニ・ボーパン(54)によるセクハラ被害を証言したことで、国会のオフィスや廊下、エレベーターの中で女性たちがエッチな代議員に何をされているかが市民に知れわたった。ボーバン夫人は、同党の元第一人者、現住居問題相エマニュエル・コッスだから奥さんは知ってたの?と、5年前、DSK(ストロース=カーン:07年元社会党大統領候補と目された)のNYのホテル寝室内での掃除婦の暴行や娼婦スキャンダルが浮かび上がる。彼もセックス依存症だった。
企業内でも上司によるセクハラは今に始まったことではないが、ボーパンにはその「け」があるという内部の噂を尻目に、部下や女性同僚議員を、議会という密室の中で次々にセクハラをしていた。同党のスポークスマン、ルッソーさんの証言によれば、「壁に押しつけられ乳房を握られ暴力的にキスされた」という。カルバドス選出議員アタールさんはメールによる嫌がらせが数カ月続いた。「君が脚を組んで座るポーズが好きだ」とか「恋人になってくれ」といった挑発的なSMS による嫌がらせ。
では被害者たちはどうして訴えなかったのか…と誰もが不思議に思う。セクハラを口外すれば、「あなたにはそのすきがあるからでしょう」とか、「セクハラを訴えれば、彼の政治家としての地位だけでなくあなたの地位も台無しになるのだから」と、とくに政界でのセクハラには「沈黙の掟」が支配する。国民議会でエッチなおじさん議員のなかには、いつもジーンズ姿のセシール・デュフロ元住居問題相がめずらしくひざがのぞく花柄のワンピースを着て答弁に立ったとき、数人の議員がからかいの口笛を放ったくらいだから、女性大臣や議員は話し方だけでなく服装にもオオカミ議員の視線が凝視している。20 年前からすると、女性議員の数が急増していることから、エッチな議員には寄りどりみどりの羊たちがそろっている。政界セクラハ問題は今に始まったわけでなく昨年5月15日、リベラシオン紙は大見出し「BAS LES PATTES!(触らないで!)」と題し、40 人の女性政治家やジャーナリストの署名入り抗議文を掲載したが、政治家たちはどこ吹く風、国会議員だけでなく、地方議員や市長、区長たちの部下に対するセクハラは面々とつづく。セクハラ裁判は頻繁に開かれている。しかし被害者が提訴しようと思った時には、ほとんどが3年の時効を過ぎている。上記の8人の場合も同様。ボーバンなどは議員の免責特権と法的に「推定無罪」を盾にし、また証言した女性たちを誹謗・中傷で逆に訴えると開きなおる。スキャンダル発覚後、さすがにバルトローヌ国民議会議長はボーバンを副議長の座から下ろさせた。
セクハラ容疑の時効は3年。それも実際にセクハラを受けた時点からの時効(強姦は10年)であって、多くの女性は辞職や異動、うつ状態後になり、訴える時には時効となっている。訴えてから3年とする案も議会で破棄された。セクハラ罪に対し、懲役2年+罰金3万ユーロ、地位や権力を乱用しての部下へのセクハラ罪には、懲役3年、罰金4万5千ユーロ。肉体的暴力を含む性的虐待罪には、懲役5年+罰金7万5千ユーロ、権力乱用によれば懲役7年+罰金10万ユーロ。しかし時効は相変わらず3年。ボーパン事件が発火点となり、時効を3年から10年にする案が近々議会に提出される予定。
セクハラは政治家だけでなく企業内でも上役が部下に、うむも言わせず「男」の性欲の餌食にしてしまう男尊女卑関係。どんなにテクノロジーが進んでも男性主導の男女の攻防戦は消えることないのだろう。もしかしたら源氏物語時代にもあったはずで、文学や演劇、映画で見るまでもなく、フランスならルイ14世時代の宮廷内でも盛んだったのではないかと思わずにはいられない。