セクハラやモラハラ、家庭内暴力はずいぶん前から問題になっているが、「閉じこもり」や「いじめ」は日本固有の問題だと思いがちなフランス人が、いままでフランスではタブーに近かった学校での「いじめ」を2、3年前から話題にしている。フランスではいじめ(brimade, harcèlement)も、刑法ではハラスメントと呼ばれる。
いじめは、70年代末にノルウェーの精神学者ダン・オルウスが「特定の級友を故意に傷つける行為」と定義した。北欧諸国の当時小中学生15万人のアンケートによると、彼らの15%はいじめの加害者か被害者の体験者だった。一方、アイルランドの調査(97年)では、小学生被害者の65%、中学生被害者の84%がいじめを誰にも話さなかったように、数字に表れないいじめがほとんどと思っていいだろう。英国での2001年の調査によると、エスニック系生徒の25%(英国人生徒は12〜13%)がいじめの被害を受けている。いじめを90年代から問題視している北欧諸国やカナダ、英国などに比べ、フランスはこの問題についてかなりの遅れをとっている。
教育省付調査局DEPPがユニセフ仏支部のために2011-13年に調査した結果によると、小学高学年生(CE2,CM1,CM2)の12%(約30万人)はいじめを受けたことがあり、5%(約12万人)は重度のいじめの被害者だ。中学生は10%(約33万人)がいじめを体験しており、7%(約23万人)は重度のいじめの被害者だ。しかしネットいじめの被害者は4.5%にのぼる。高校生は3.4%(7万3千人)。
昨年、国営5チャンネルで中学生のいじめの被害者と親たちの証言番組が放映された。男女生徒6人と親たちがそれぞれの体験とどのような処置をとったかなど、顔にモザイクをかけたり、ぼかしたりせずにカメラに向かって語らせ、いじめというタブーを打ち破ったことは画期的だった。一人の女子生徒は最初から「デブ」「ブス」「バイタpute」など侮辱的罵声を浴びせられ、階段の影に縮こまっているところを教師が黙ったまま通り過ぎたと証言。どもりがちの男子生徒はそれを理由にからかわれ、口をきくこともできなくなったという。
校内での殴る蹴るの暴力のほか、外見や人種・宗教的相違、侮辱的あざけり(「ペデ」「オカマenculé」「バイタの子fils de pute」他)、ゆすり、メガネをかけ勉強のできる生徒を「インテロ」とあざけり、校庭で仲間はずれにする。フランス語で言い返せないアジア系(ハーフも)の生徒は、日系でもしばしば「シノワ」とよくバカにされる。教室内でいじめの対象になった生徒に何かを投げつけては、共犯者たちがくすくす笑い合うといったいじめの諧謔的な場面は、映画にも出てくる。
ネット(サイバー)いじめに遭い、窓から飛び降り自殺した1人の女子生徒は、夜中もスマホやツイッター、フェイスブックに恥辱的、卑劣なでっち上げの噂を写真入りで誰彼かまわず流され、寝ずの日が続いた。寝室での娘の苦悶を感知できず娘を助けられなかった母親は深い悔いに苛まれる。
いじめられるのは一般的に内気で、内向的、怖さのあまり親にも、先生にも話せない生徒が多く、誰にも話さず内に閉じこもるから、ますますいじめの餌食になっていく。被害者の中には転校を選ぶ場合が多い。