ボランティア入隊から市民用役まで。

昨年11月13日のパリ同時多発テロのまだ残骸が残る中、テレビが報道していたのは、区役所に軍隊への入隊を希望して駆けつける若者たちだった。まだ高校在学中の者、中退者、失業者、看護婦志望の若い女性など、多いときは1日に140人もの入隊希望者がつめかけた。それほどに彼らはフランスを「イスラム国」兵士のテロ活動から守らなければならい、という愛国的精神に燃えていた。

オランド大統領が昨年4月に発表したボランティア入隊SMV(Service Militaire Volontaire)の兵舎はすでに国内3カ所にできており、今年は南仏にもつくり計7カ所にSMV兵舎をつくる意向。それはシラク大統領が20年前に廃止した徴兵制の復活ではない。

毎月公表される若年層の失業者数の増加ごとに大統領の表情がこわばるように、現在350万人にのぼる失業者のうち、25歳未満の失業者は約70万人。海外県ギュイアンヌでは若年層が失業者の40%、マヨットでは55%を占める。全国のホームレス14万人のうち4人に1人は30歳未満だ。ホームレス救援番号115 番に連絡してくる者の40%は25歳未満だという。

このような社会状況のなかで、毎年中卒の資格もなく何の免状もないまま社会に放り出される16~25歳の若者の増加をいちばん恐れているのはオランド大統領だろう。大都会やその郊外には青少年まで巻き込む麻薬のディーラーが根を張り、地元経済の二重構造がすでにできている。その縄張り争いのための撃ち合いがマルセイユなどで頻繁に起っている。

ボランティア入隊SMV
 国防省に所属するボランティア入隊制度は、すでに1961年から海外県の若者を対象としてつくられた。ボランティア応募者は6~12カ月間の準軍隊訓練を受けられる。2016年だけで2000人の応募者を迎えた。ゆくゆくは訓練期間を9カ月でなく2~4カ月の短期入隊も設け、国防省としては、年間10万人の若者を軍隊式に鍛えていきたいという。
父親不在の母子家庭が増えている今日、この制度に70 %以上の世論が賛成している。しかし、あくまでもボランティアにかぎる。家でぶらぶらし、非行に走りかねなかった青少年少女は、毎朝6時起きし、まず公民精神を伸ばし、軍服を着て規律正しく、礼節を守り、上官を敬い、グループ作業をし、運転も習え、将来社会に参加できるようになれる過程といえる。もう少し適応範囲を広げ、建設業やホテル業などの養成コースにも進める。SMV応募者の給与は月313ユーロ。

2015年10 月29日、ロレーヌ地方のSMV基地訪問時のオランド大統領

2015年10 月29日、ロレーヌ地方のSMV基地訪問時のオランド大統領

海外県では2014年に5600人の応募者のうちSMV修了後77%が就職できたのである。彼らの60%は中学も出ておらず、30%は読み書きもできなかったという。

そのほかに、国防省管轄の社会同化適応センターも18カ所にあり、8カ月から24カ月の養成過程に18~25歳の失業者3千人を迎え入れている。彼らは中規模の工場での技術習得からパン屋や左官屋、肉屋などの見習いとして人手不足の分野に送られる。

市民用役
 一方、2010年に発足した市民用役(Service Civique)とは、16 ~25歳の失業者や中高校の落ちこぼれ生徒などを対象としている。用役分野は自治体やアソシエーションが組織する文化・教育、スポーツ、エコロジー分野、慈善活動、老人ホームや障害者施設…など幅広い。16~18歳の応募者には健康診断書や親の承諾書が必要。2015年には約7万人の若者が市民用役を体験している。16年1月11日、オランド大統領は、17年からは年間17万人の若者を市民用役に迎え入れ、彼らが実社会に参加できるように政府はそのための予算を惜しまないと意気込む。知人の16歳の息子は、外国人や地方人のパリ観光を充実させるための市内ガイド・案内サービスを受け持っている(テロ以後一時停止)。週4日働き、給与は手取570ユーロだという。

欧州ボランティア用役 SVE
そのほか18〜30歳の若者には欧州ボランティア用役(Service Volontaire Européen)もある。2〜12カ月間、欧州諸国での連帯的公益につながる用役に参加し、国際性を伸ばし、異国の文化・言語を体得できる。給与は現地の組織が負担する。履歴の上でプラスアルファの体験として認められる。

日本でならフリーター職には事欠かないのだろうが、若者の親からの経済的独立は、どこの国でもそうたやすくない。手を変え品を変えての国家の後押しがどれほどの実を結ぶのか、青少年を抱える家庭には身につまされる問題だろう。