2015年1月のシャルリー・エブドのテロ犯クアシ兄弟もユダヤ食品店襲撃者クリバリも元服役者だ。多くの若者は強盗犯や麻薬ディーラーとして服役するのだが、服役中、イスラム系ボスに洗脳され、刑務所を出る時はイスラム過激派となって出所する者が多い。ルモンド紙(15-2-5日付)に掲載された「暗闇の煽動者たち」によれば、2014年6月に刑務所内でイスラム過激派とみられた服役者は90人程だったのが、それから6カ月後の15年初期には160人に増えていた。
彼らのイスラム過激派への移行度がどのような基準で測れるかは、刑務所付属の心理分析職員や指導員の調査に任されるが、家族も友人も面接に来ない、所内に打ちひしがれる服役者は、ジハード(聖戦)への勧誘に努めるボスタイプのイスラム服役者のエサになる場合が多い。リーダー格のボスは孤立する服役者にコーヒーをおごるとか、優しい言葉をかけて、アラーへの祈りまで指導するようになる。ひげを伸ばし始めたり、夜中も含めて1日に5回小さい絨毯を敷いてメッカに向かって祈る服役者は、職員にマークされるものだが、なかには過激派に見られないために、ひげも刷って、外見に注意するようにもなる。毎週金曜日にフランス語で説教しに来るイマーム(指導者)を「彼は正当なイマームではない」という噂を所内に流し、各々が独房でコーランを独学するようになるという。
刑務所や国立病院、軍隊付属のカトリックやプロテスタント司祭と同様に、イスラムのイマームも90年代から配属されるようになった。配属される全聖職者1440人のうちイマームは現在182人にすぎず、公務員として認められず月収400〜500ユーロ。イマームとしての公認資格はなく、今まではモロッコやアルジェリア、サウジアラビアから資金と共に送られてくるイマームが多かった。昨年シャルリー・エブドのテロ後、カズヌーヴ内相が強調したのは、イマームの資格として神学のディプロームとフランス語での説教を義務付けることだった。
この3年以来フランスからシリアやイラクのジハード(聖戦)戦士になるため現地に向かったフランス人青少年は700〜 1000人(女性230人余)、そのうち昨年8 月までに、内務省の調べによると126人が死亡。昨年の同時多発テロに見たように、内務省が警戒するのは、服役者の中でシリアからの帰国者や「イスラム国IS」に引かれる若者らがイスラム過激派となり、国内でテロに走ることだろう。
16年1月15日号のルモンド紙が明らかにしたヴァルドワーズ県の刑務所の取材記事「刑務所内の対話」は、テロ犯・容疑者を獄中につないでおくだけではなく、彼らの経験と考えに耳を傾け対話を生み出すこと。2〜6カ月にわたるこの対話班にボランティア的に参加する20人の服役者とテロ志向の疑いのある者と共に、元服役者や精神分析医、社会学者も参加。ムスリム系青少年犯罪者は「今まで女性の誰にも口をきかなかった」「少年時代から家ではユダヤ人を好きになってはいけないと言われて育った」「所内で初めてカトリックや無神論者にも出会った」と、刑務所内で自分以外の信者を発見する者…、「他人の話に耳を傾け、手を挙げて自分の意見を言うようになっただけでも収穫」と職員。しかし「アラーのための」テロ志向の毒矢に蝕まれ、どんな対話にも耳を貸さない服役者は独房に隔離し、他の受刑者と接触させないようにしている。
この対話活動の対象になるのは、一般服役者700〜2000人の他、230人のテロ犯罪・容疑者だ。内務省はこの「対話によるイスラム非過激化活動」を全国の刑務所に広げていく意向で、服役者をイスラム過激派にさせないための予防策だ。「イスラム国」に参加した服役者の中には、「アラーの裁きは受け入れるが人間による裁きは受け入れない」と非社会化を強める者もいる。