EU28カ国が難民のたらいまわし

漂流する欧州大陸(Libération : 18-6-13)

 6月11日、リビア沖で救出された難民629人を載せたNGO船アクアリウス(SOSメディテラネや国境なき医師団)はイタリアとマルタ共和国で上陸を拒否され、スペインのサンチェス首相が彷徨う鳥を抱き入れるようにバレンシア港に迎え入れた。6月23日、デンマークのコンテナ貨物船も113人を救助、やはりNGO船「ライフライン」が239人を海上で救助しイタリア上陸の許可を待っていたが、ようやく29日マルタの港に入港できた。アクアリウス号をマクロン大統領が受け入れなかったことに60%近い世論が「良い選択だった」としているが、仏大統領はスペイン首相の英断に先を越されたようだ。そこでマクロン大統領はスペインに負けじと7月3日、アクアリウスの難民80人、ライフラインから52 人、合わせて132人をフランスが受け入れると発表した。 ちなみに2018年初頭より1000人の難民が地中海で水死している。

何も生み出さなかったEU28カ国首脳会議
 6月28-29日ブリュッセルの会議では、イタリアだけが地中海からの難民の上陸国になっていると憤慨するポピュリスト党の同盟サルビーニ内相は、「EU諸国の難民の受入れ分担の義務化」を力説したが、ドイツのメルケル首相他、ほとんどの国が反対し、義務でなく「自主的受入れ」で妥協した。マクロン首相は欧州諸国の連帯関係を主張しながらも、ダブリン協定に従い、最初に入国したEU国が責任を負うべきとし、仏国内に「移民収容センター」を設置することに反対だ。この案に対し、ギリシャは移民収容センターを設けてもよいとしている。ギリシャはすでに2015-16年シリアなどからの難民収容センター を島々に作り、EUから多大な支援金を得ている。
 また難民がアフリカ大陸を船で離れる前に、難民なのか経済移民なのか審査する「出航プラットフォーム」をEU外の国に設けるという案に、チュニジア、モロッコ、リビアが反対表明している。急きょ、メルケル独首相がスペインとギリシャと交渉し、ドイツやオーストリアに入った難民がスペインやギリシャから入った難民だと分ったら両国に送還することに合意した。
 メルケル首相(CDUキリスト教民主同盟)と連立したゼーホーファー内相(CSUキリスト教社会同盟)との対立が表面化したこのEU首脳会議は、メルケル首相にとって独政権分裂回避の正念場だったのである。

2015年がピークの難民の波
 シリア内戦の激化とともに難民は地中海からギリシャ、東欧諸国を越えてドイツやオーストリアにも向かった。 2015年メルケル首相が100万人の難民を受け入れたのは、高齢化が進むドイツは将来の労働力を難民に期待しているからだろう、と隣国は解釈したものだ。しかし極右やポピュリスト勢力が勢いを増すなかでメルケル首相の主導力にも陰りが見え始め、2017年に新たに入国した亡命希望者や難民の数は15万人に激減した。非西洋人排斥感情の強いハンガリーも2016年に40万人が通過していた国境に高さ数メートルのフェンスを設置している。また中近東からの難民が集中するトルコには難民キャンプが急増。エルドアン大統領はそれらの維持費としてEUからすでに60億ユーロの支援金を受けている。

フランスの難民受入れ政策
 フランスは2017年までに3万人の難民を受け入れると公表したものの、難民・無国籍者保護局(OFPRA)の数字によると16年までの亡命申請は約10万件、その中で許可を得たのは1330人にすぎない。コロン内相によると、仏以外のEU国から入国した移民・難民の国外退去は2016年4万5千人、17年8万5千人にのぼったという。
 南から地中海以北への難民の流れが恐れられているのは、最終的には宗教の違いだろう。16年10月、ドイツで話題になったのは、15年シリアから避難して来たシリア人家族の父親は4人の妻と23人の子供連れで、年間の亡命者支給額は36万ユーロに達し、ムスリムに多い一夫多妻家族への支給問題が浮上した。
 ドイツでは200万人近い難民にまずドイツ語の習得を義務付け、亡命許可取得3カ月後から働ける。援助制度は住居を保証するなど州によって異なるが、ベルリンでは月1人365€ / 2人なら437€を給付。フランスでは宿舎は保証されるが、亡命者手当は1日6.6€(扶養家族1人につき+3.4€)。彼らは9カ月間働くことはできず、宿舎の個室にいるほかないという。
 ブルゴーニュで暮らす定年の知人は、市が受け入れたスーダンとエリトリア(エチオピアの北)から来た4〜6人の難民男性にボランティアでフランス語を教えているが、彼が解せないのは、ラマダン中、彼らは授業に出席しなかったことだという。ほとんどの難民が信仰するイスラームがどこまで西洋の文化と男女平等の西洋社会に溶け込んでいけるかだろう。