ハーヴェイ・ワインスティーン・スキャンダル
30年近くハリウッドを牛耳ってきたワインスティーン・カンパニー(TWC)創立者ハーヴェイ・ワインスティーン(1952- )が、女優やモデルたちをセクハラしてきた醜悪なスキャンダルをニューヨークタイムス(10/5) とニューヨーカー(10/12)が暴露(後者の記事を書いたのは、ミア・ファローとウディ・アレンの実子ローナン)。TWC役員会は彼を解任し、米映画芸術科学アカデミーも彼を除名した。今まで屈辱の沈黙を守ってきた欧米の女優たちがツイッター#Me Tooで被害体験を告白し、フランスでも#BalanceTonPorcや#Moiaussiに2週間で30万人以上の被害者が投稿するなどセックス「ブタ」への批難攻撃は強まる一方。フランスでは性依存症ぎみだった大物の政治家DSK(ドミニク=ストロース・カーン元経済相)のNYヒルトンホテル職員のセクハラ事件が国民の記憶から消えていない。
セクハラを武器にする男性群
米映画界の”王者”ワインスティーン のセクハラ癖を知らない映画関係者はいない。ジェーン・フォンダも知っていながら、目をつぶっていたことを悔いているほど。カンヌ映画祭中でも仏女優(コチアール、アジャーニ、ビノッシュ、パラディ…)も寝室に招かれた逸話を語る。ゾラの『ナナ』の時代も、女性歌手や芸能人は監督や支配人に囲われなければやっていけなかったのだが、今日、映画界だけでなく、大学、病院、公共機関、企業…と上役がセクハラで女性を手玉にとる習慣が横行している。ヒッチコックの『鳥』の主人公ティッピ・ヘドレン(87歳)は手記(2016 年発行)の中で撮影中に監督にセクハラを受けたと書いており、今日の映画界はヒッチコック時代から「何も変わっていない」とメディアのインタビューで叫び、女性被害者たちの告発を声援している。20世紀後半以来、避妊薬、フェミニズム、男女平等…と女性解放が謳われながら、男性の女性に対する武器がセクハラと性暴力。それを助長させてきたのが被害者の恥辱の沈黙だった。対セクハラ・性暴力の告発は、従来の男女差別関係をくつがえす運動になるかもしれないのだ。
女性はセクハラと性暴力に対してどこまで闘えるのか
フランスで、セクハラや性暴力が数十万件ある中で被害者が警察に告発するのは年に千件ほど。2014 年度IFOP調査によると、職場では5人に1人がセクハラを受けたことがありながら、訴える女性はたったの5%にすぎない。訴えても93%は証拠不充分または「同意の上で」という男性側の偽りの証言で不起訴に終る場合が多い。今まで沈黙してきた被害者たちがネットで、レイプやセクハラした有名男性や政治家などを名指しで公開し、「ブタ」のレッテルを貼るほうが警察に訴えるよりも効果的なのは明らかだ。
セクハラの法律上の定義は「性を暗示し、被害者の尊厳を侵害し怖がらせ、悪意のある侮辱的言動を2 回以上繰り返すこと」とある。セクハラに対する刑罰は、拘禁2年〜3年+罰金3万〜4万5千ユーロ。 時効期間は今年2月の法改正で3年から6年に延長された。
セクハラと性暴力
性的暴力罪の定義は「暴力、強制、脅迫、不意に性的な暴力をはたらく」こと。刑罰は禁固5〜10年+罰金7〜10万 ユーロ。被害者が15歳未満の場合は、禁固10年+罰金15万ユーロ(強姦罪の刑罰はさらに重い)。シアッパ男女平等担当相は10月16日、「性差別や性的暴力防止法案を来年初頭に議会に提出し、未成年者に対する性的暴行容疑の時効を、現在の成人後20年から30年に延長する方針」と発表した。これには特に親や親族による近親姦性犯罪も含まれる。ちなみにカナダなどにはそれに対する時効はない。
街頭でのストーカー対策
街頭や交通機関内で女性を中傷するような言葉や屈辱的言動で脅かしたり、後を付いてくるストーカーなどについて、マクロン大統領も10月15 日TF1局で、この種のストーカー行為なども違法行為とすべきだと表明した。今後は警官の被害者への対応・調査方法を改善していくべきなのだろう。