日本でも児童虐待問題が話題になってから久しい。日本の厚生労働省の統計では、2012年の児童虐待件数は66,701件にのぼり2000年 に比べて5.6倍増えているという。
フランスでは20年ほど前から家庭内暴力(DV)による女性被害者の死(3日に平均1人死亡)がマスコミで話題になったが、今日児童虐待により推定2日に1人の未成年者が死亡しているとみられる。1歳未満の被虐待死亡者は年間平均255人に及ぶという。
私生活のタブーの中のタブー、児童虐待を家庭内問題としてとどめておくことはできず、3月1日、ロシニョール家族・児童・女権相が児童虐待防止計画を発表し、託児所や保育園、学校・課外活動関係者、小児科医などに通達した。
昨年秋、昔から子どもが受けているおしおきのための「尻叩き」の是非論が話題になったが、憲法評議会は「禁止しない」という判断を下した。昔からの習慣で子どもの尻を叩く親たちがあまりにも多かったのだろう。
クレテイユ県児童虐待情報窓口CRIPには2016年に5627件の児童虐待が届けられている。パリジャン紙(17-3-1)が報道した最近の児童虐待例として、昨年11月、マルヌ県ランス市で3歳のトニー君は義父に殴り殺された。連日叫び声と泣き声を聞き警察に通告した隣人カップルは虐待容疑者から「私生活に口を出すな」と脅迫を受けたという。1月、ロワール・アトランティック県で8歳のダヴィッド君は手足を縛られ浴槽で溺れ死ぬ。1月ヴァル・ド・マルヌ県で15歳のウマル君はベルトで死ぬまで打たれた。2月初めパ・ド・カレ県で5歳のヤニス君は夜おねしょをしたため殴られた上、数キロを濡れたパンツのまま走らされ死亡した。今年に入って7人の児童が死んでいる。
ロシニョール相が発表した児童虐待防止策として、児童虐待の発覚は、小児科医や保育園の保母、小学・中学校の教員・保健医、課外活動指導員などに負うところが多いので(幼児・生徒の顔面や体の青あざだけでなく、園内や校内での孤立状態、暗い表情など)子どもの様子に注意するようにとうながす。司法医は15歳未満の不審死に対して司法解剖を要求できる。そして家庭が児童にとって危険と思われる場合は、社会福祉課が警察と調査した上で被害児童を里親に託している。
少女の裸体を撮影し続けたデヴィッド・ハミルトン(83歳)は、昨年11月25日パリの自宅で亡くなった(そばに薬があったという)。13歳からハミルトンの被写体となったフレイヴィ・フラメントは、著書『Consolation 慰め』でハミルトンに犯されたことを告発し、同じ体験をもつ被害女性4人と共に告訴した。ハミルトンは死ぬ3日前の22日、彼女らを名誉毀損で訴えると言っていたという。
性的虐待の時効は発生時からではなく成人年齢18歳から20年で、38歳まで告発できる。しかしそれ以後はかつての児童虐待者は何食わぬ顔で安閑と暮らせるのだ。教会の少年合唱隊時代に神父から性虐待を受けた少年や、父親や叔父・祖父に性虐待を受けた娘や息子、孫や甥・姪が、母親や外部の人に打ち明けることの難しさを想像できよう(*)。やはり同日付パリジャン紙によると、女性の57%、男性の76%は未成年期に近親者または知人から性的虐待を受けたという、目に見えない私生活の裏に潜む統計が出ているのである。40代になっても少女・少年時代に受けたトラウマから脱け出せないでいるフランス人が多いのだ。
*イザベル・オブリ著 / 小沢君江訳『それは6歳からだった』(緑風出版)