高齢の両親のどちらかに認知症またはアルツハイマー型認知症が進み始め、一人で身の回りのこともままならなくなったとき、介護施設EHPAD(医療付メゾン・ド・ルトレット)を探すかどうかの問題を抱える50~60 代の人がかなり多い。それはどこの国でも同じだろう。20~30年前まではだいたい70歳前後で脳いっ血か心不全、ガンなどで亡くなる人が過半数だったのが、それより寿命が20年伸び先進国のどの国でも90~100歳の人口が増えている。2017年1月14日付のル・パリジャン紙の特集「どうやって高齢者介護施設を選ぶか」を追ってみよう。
フランスには公・民営・NGOを合わせると、一般家庭に介護を要しない2、3人の高齢者が宿泊できるホワイエ・ド・ルトレットも入れれば全国に6800の高齢者受入れ施設がある。しかし家族にとって一番の悩みは、どうやって本人にこうした施設に行くことを理解させられるかだろう。家族に見捨てられ死に場に送られると思う高齢者も少なくないはず。そして次に来るのは、入所代を払えるか経済的な問題だろう。
フランスの主要都市とその周辺にあるメゾン・ド・ルトレットの1日の入所料は、パリ: 61~232€、リヨン:48 ~122€、マルセイユ:64~116€、リール:52~113€、モンペリエ:52~109€、ニース:58~136€、ボルドー:51~125€…と最低月1500ユーロから4000 ユーロはかかる。パリの一番高い施設は月6900ユーロにもなる。これらの額の幾分かを年金(年金の90%額が入所代にまわされる)でまかなえたとして、社会保険が支給する住居手当や老齢年金、要介護度に従って地方自治体が支給する個別自立手当(APA: Allocation personnalisée d’autonomie)などを加えても足らない場合には、当人が亡くなったあと遺族に請求書が送られてくる。こういうことにならないように子供たちが費用を出し合うか、それも難しければ入所者所有の住居を売却しざるをえない場合が多い。もちろん不動産があればの話だが。
介護施設を選ぶ場合、家具の一部を持ち込めるのかなどを調べたうえで、なるべく平日見学することを勧めたい。なぜなら日中どのような活動が行われるのかも知っておくべきだから。筆者の友人が入所している施設では週1回シャンソン指導があり、皆楽しそうに懐かしいピアフの唄などを合唱している。友人は部屋にテレビを持ち込みJSTVで相撲の中継なども観ている。あと不可欠なのは携帯電話だろう。家族や友人とのコミュニケーションを保てるからだ。
介護員はだいたい入所者10人当たり6人が基準になっているが、3、4人しかいない場合は、充分な介護は期待できないだろう。実際に入所を希望しても、25%は申請後空き部屋が見つかるのはだいたい3カ月後、55%は3カ月から1年待たされ、公立の安い施設となると、最低1年以上は必要だという。
最後に自宅介護を希望する場合も、定年保険(Assurance Retraite)またはAPAが提供する様々な援助サービスを利用すべきだろう。息子か娘が介護に専念する場合、最低賃金の75 %(月946€、四六時中介護が必要な場合は+20%)支給、家屋内の改装や車椅子用に車内整備、買いもの、家事手伝い、さらには泊まりがけの介護人派遣サービスも徐々に始められている。日本のデイサービスまではいかないが、保健省も自宅介護分野を開拓すべき時期にきているようだ。