デモっても鎮まらない警官の憤懣。

10月20日シャンゼリゼでのデモ。(AFP)

10月20日シャンゼリゼでのデモ。(AFP)

 10月8日、郊外ヴィリー・シャティヨンでコントロール中の警官の車に若者らが火炎瓶を投げ入れ警官2人が重傷を負って以来、18日以降シャンゼリゼを始め地方都市で、最初は制服姿(禁じられている)で後は私服で警官数百人が連日覆面しデモを繰り広げる。様々なデモの度にデモ隊の投石や暴力を受け、郊外では特に麻薬ディラーの取締りで若者らの憎悪の対象となる。市民の治安を守るための警官なのだが自分たちの安全を守るために、装備の拡充や人員増強、テロ事件以来の彼らの過剰動員態勢に対する抗議運動を繰り返す。市警のピストル携帯と正当防衛は認められてはいるものの、現実には、正当防衛の解釈がまちまちで警官が加害者として取り調べられるケースが多い。今回の抗議デモは、警官組合からもはみ出した下からの怒りだった。

 マリアンヌ誌(10/28)によると、年間30O 万件の軽犯罪が罰せられず、10万件の実刑も実行されていない。警官の行動と司法警察とのギャップによる司法態勢への不信感、自分たちの努力が司法警察に無視されることへの憤懣に加え、彼らの超過勤務による家庭の破壊など、勤務者としての充分な保障も与えられていない現状へ怒りでもある。

 ひと言で警官といっても、フランスには警官(ポリシエ)と憲兵(ジャンダルムgendarme)が存在する。国防省に所属するジャンダルム(語源はgen+arme:武器を持つ人)は1791年に生まれ、翌年身分証が発行された。憲兵はいわゆるおまわりさんとして、地方の町や田舎の治安と警備にあたる。今日全国に約10万人いる。

 一方、国家公務員である警官は内務省に所属し、都市圏に配属される。現在14万5千人、給与は手取り1870〜2544ユーロ、養成期間は12カ月、学歴はバカロレア+高等教育2年。

 地方公務員である市警は、人口10万以上の町(4349の自治体)に警察署が設けられ約2万1千人が配属。給与は手取り1500 〜1900ユーロで市が支給。養成期間:6カ月、学歴はバカロレア取得。市警は全国土の50%を管理し、95%の人口が市警の世話になっている。交通法違反の取締りなども市警の管轄。

 パリはどうかというと、内務省に直属する警視庁が1万7千人の警官を擁する。1995年、特に都市郊外にジョスパン社会党首相が新設した至近警官を02年サルコジ大統領が廃止したことで、住民と警官との接触がなくなり、郊外の青年たちの目には警官=弾圧という偏見が根付く。オランド大統領もヴァルス首相も、前政権の落ち度として至近警官の廃止を根に持っている。サルコジ大統領が内相時代に、郊外のムスリム系若者たちに放った「ゴロツキどもracailles」はサルコジ語録に刻まれた。

 10月26日、警官組合代表がオランド大統領とカズヌーヴ内相と会見し、内相は警官の装備拡充のため2億5千万ユーロの補助金を約束した。警官側は、病院や裁判所前、校舎前、公共施設前での守衛役を廃止することを要求したが、守衛を廃止するかどうかは国会討議を通さなければならない。警官たちは、テロが起きても24時間じっと公共施設の守衛役を務めねばならない矛盾を指摘する。

 最近の警官たちの抗議運動を一番応援しているのは、国民戦線党(FN)のマリーヌ・ルペンだろう。
警官たちの半数は昨年の地方選挙でFNに投票しており、現在51%はFNを支持しているという。

 一般的に公務員は社会党政権支持層とみられてきたのだが、教員、看護婦、警官など国家の骨子をなす社会構成員によるオランド・バッシングをどうかわせるか。

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