ミッテラン故大統領の恋文書簡集『アンヌへの手紙』が出版された日(10/13)、オランド大統領の『大統領が言うべきでないこと…Un président ne devrait pas dire ça…』(672頁/Stock/24.5€)が出版され、どちらを先に読むか迷ってしまう。
ル・モンド紙の2人の記者ジェラール・ダヴェルとファブリス・ロムが、エリゼ宮での夕食も含め61回、アパルトマンで10回近くモノローグに近いオランドの内訳話を聞き、合計100時間録音した。オランド大統領は来春5月に終る任期の墓碑の代りに、臓腑(ぞうふ)をぶちまける独白書を残したかったのかもしれない。
述懐は、2012 年大統領着任直後に発覚したカユザック元経済相の巨額脱税疑惑に始まり、15、16年とテロの煽りを受けて考えついた二重国籍テロ犯の仏国籍剥奪案が国民の総スカンをくらい、色濃い汚点を残す。可愛いがっていた若きマクロン前経済相の裏切り、解決されることのない失業問題、治安の悪化、EU数カ国の経済危機、テロの続出など脅威の嵐が襲うなか、社会党の内部分裂、口約束のまま終る多くの公約、公務員層のオランド大統領への幻滅と不信感、敵サルコジ前大統領が隠密のパパラッチまで配備した「嫌がらせスパイ網」への恨みや、オランドの私生活にまでおよぶ。
またオランドが「司法機関の卑劣さ」と口走り、司法機関を侮蔑した越権発言に司法界が激怒し、最高位にある司法官2人が同書の発行翌日エリゼ宮に行き、オランド大統領に抗議、翌日大統領は高等司法官評議会に謝罪文書を送った。王朝時代に王が裁判官らを卑下した伝統的姿勢が大統領にも残っているよう。12年サルコジ大統領が着任後、彼が司法官たちを「味のないグリーンピースに似ている」と侮蔑した言葉が思い出される。
なかでも本書の出版を一番気にしていたのは、14年1月にエリゼ宮から追い出された一時的ファーストレディ、ヴァレリー・トリエヴェイラーだろう。彼女はエリゼ宮を去って6カ月後、オランド復讐の手記『Merci pour ce moment今までありがとう』を出版し怒りを鎮めたにしろ、オランドが独白書の中で自分のことをどう語ったのか、3人の女性のうち誰を一番愛したのか嫉妬の炎がまた燃え上がる。ル・パリジャン紙(10/12)は3人の女性に関して、未婚のオランドとの間に4 人の子どもを持つ「セゴレーヌ・ロワイヤルが私を一番よく知っている」「彼女が一番身近に感じられる」、つまり「生涯の伴侶 femme de sa vie」と言いたいところ。13年にオランドの女優ジュリー・ガイエとの噂が囁かれた頃、「ヴァレリーの妄想はジュリーではなくセゴレーヌの存在だった、セゴレーヌが彼のもとに戻ってくることを恐れていた」。ヴァレリーの手記を読んでいないオランドは「彼女の本には悪意はなく、不幸せな女性としての行動だった」という。エリゼ宮の近くに住むジュリーとはそれほど頻繁に会っていないが、彼女は大統領との関係に悩んでいる。彼は大統領であるかぎり結婚には反対だ。再出馬してもほとんど再選は不可能なのでジュリーの願いが実るかも。でもセゴレーヌと4人の子どもを持ってもオランドは結婚する気がなかったのだからどうかな…。
しかし独白書を出す勇気に誰もが驚くが、閣僚や社会党議員たちの間にはここまでおおっぴらにする必要はないのに…と批判の声も。ヴァルス首相もカナダ訪問中(10/14)、「大統領の威厳を損なうような発言は慎みたい」とやんわりいさめる。本書を出すことで、オランドは再立候補の意志を示しているのかもしれない。どこまでもオランドへの忠誠を貫くヴァルスは、10月末の世論調査で支持率がついに4%にまで落ちたオランドが再出馬しないと決めないかぎり、マクロン前経済相みたいに大統領の顔をつぶすようなことはできない。オランドの独白書が逆効果を生んでいるなかで、社会党内でヴァルスを推す声が強くなりつつある。2017年1月22日と29日に予備選挙。果たしてオランドは若き首相に大統領候補の席をゆずるのか…。