ジハーディストが教会で司祭を斬首。

7月14 日花火の夜、ニースのプロムナード・デザングレで84人(負傷者200人以上)の死者を出したトラック暴走テロの衝撃から国民が抜けきらない12日後の26日、ノルマンディーのルーアン近くの小さな町サン・テチエンヌ・デュ・ルヴレ教会で朝のミサ中に2人のジハーディストが教会に侵入し、86歳のジャック・アメル司祭ほか5人を人質にとり、司祭を斬首し、信者3人に重傷を負わせた。2人は「アッラーアクバ」(処刑時に連呼する言葉)と叫びながら外に出た時に対テロ特別隊に射殺された。「イスラム国」(IS)は「このテロは十字軍(キリスト教)連合国を狙った」と犯行声明を出している

町の住民に愛され敬われてきた高齢の司祭を教会内で斬首するという、カトリック国フランスにとってあまりにも強烈な、明らかにIS がフランス全体を狙ったテロとして国民にかつてない衝撃を与えた。テロリスト2 人とも19歳、アデル・ケルミッシュは、15年3月以降、2回シリアに向かおうとしたが逮捕され、5月に「テロ集団参加の疑い」を理由に10カ月間収監された後、16年3月、条件付きで仮釈放された。GPS足輪(毎日4時間自由行動できる)を足首にはめたまま、教会内のテロにおよんだ。警察の監視下に置かれる要注意人部には「居住指定」またはGPS足輪が課され、様々な犯罪の仮釈放用のGPS足輪は現在、全国で1万1 千人が着装している。今回のテロ事件で、GPS足輪の有効性が話題に。〈S〉(要注意人物)としてブラックリストにのり監視下に置かれている者は全員刑務所に入れておくべきだという声が、サルコジ前大統領や保守政治家の間に出ている。

9.11のあと、ブッシュ大統領がイスラム勢力と戦う「十字軍」と名乗り、「あなたは私たちの見方?それとも敵?」「あなたは十字軍側?それともイスラム側?」と市民にニ者選択を迫ったのが思い出される。ビン・ラディンも言っていた「今日の世界は二つに分かれている」と。

以前のアルカイダ関係のテロ事件が、指導部が指揮するピラミッド型構造だったのが、11 年以後は、特にウェブやユーチューブによって世界中でジハード(イスラム聖戦)思想に洗脳される若者が増殖し、自発的、衝動的、個別的にテロができるようになっている。元移民の2世、3世は両親らが通ったモスクには行かず、ほとんどコーランも読まず、彼らが「メクレアン」(無信仰者)とみなすイスラーム以外の人びとから、穏健派といわれる「イスラーム・ライト」のムスリムまで、「グレー諸国」(多宗教徒共存国)の住民を無差別にテロの対象にしようとする。

ジハーディストらの目的は、多文化が共存する西洋諸国民を分裂させることにある。15年からフランスを襲っているテロ、今年はニースに次ぐ今回の教会の司祭を狙ったテロの恐怖のとばっちりがムスリム市民に跳ね返るのを恐れずにはいられない。ほとんど連日ラジオはシリアやトルコの町での大規模なテロのニュースを流している。そのたびに30人、40人のムスリム住民が死んでいるのである。地球のグローバル化だけでなく、シリアやイラクから西洋に流れ込んでくる数百万のムスリム避難民も、これからは西洋諸国の住民となるのである。