To be or not to be と同じく「アウト」or「イン」、ブレキシット(離脱)派と残留派が2年間の陣痛の果て、ついに6月23日の国民投票で「Leave」(離脱)票が51.9%を占め、43年間のEU共存体制が破綻した。欧州連合史初めての脱退だ。ギャンズブールとジェーン・バーキンも最後は決裂で終ったっけ。ギクシャクする英仏関係はそれ以前の、210年前の1805年トラファルガーの海戦にさかのぼる。このナポレオン戦争に深い怨念をもつ英国は、以来、隣国フランスを警戒する傾向に。チャーチルはフランスを含め全欧州をヒトラーから守ったのだが、チャーチルが1930年に言った言葉、「私たちは欧州と共にあるが、欧州の中にはいない。私たちは欧州とつながりがあるが、欧州には含まれない。私たちは欧州に関心をもち連合するが、欧州にはのまれない」。このような複雑な関係を意識してか、1957年に6カ国が調印したローマ条約EECに英国は調印せず、63年、67年にはドゴールが英国の加盟に拒否権を使った。72年に承認され75年の国民投票で欧州連合への英国の加盟が決定した。
英国はサッチャー時代からEUの決定に常に横車を押し、英国に有利な特別扱いを要求し(統一通貨ユーロを導入せず、加盟国間国境排除のシェンゲン協定も非承認)、准加盟国の位置を堅持してきた。次期首相の座を狙う保守党ボリス・ジョンソン前ロンドン市長と英国独立党のファラージュ党主とも英国を占領しつつあるというポーランド他、東欧移民の増加はすべてEUのせい、とEU懐疑派市民に被害者意識を植えつけた。そのうえEU供出金(その中から英国の農業・家畜業者への支援金が出ているのだが)として英国は週に3億5千万ポンド(実際は1億3千6百万ポンドを2倍半に大風呂敷)を納めているから、EUから出れば、その金を英国民の医療対策に回せる、といったデマゴギーでEU離脱指向を高めた。それだけではない、ドイツを毛嫌いするボリス・ジョンソンは「EUとヒトラーの目的は同じ」と暗にメルケル独首相のEU主導ぶりを揶揄。もともとブリュッセルのEU委を牛耳るテクノクラートを憎悪する。
英国民の分裂は、世界経済の中心、ロンドン金融界シティを動かすエリート層と若年層のEU支持層(60-80%)と、労働者・庶民・高年層のEU離脱派の正面衝突となった。EU離脱後、英国に滞在しているフランス人 (30−40万人)やイタリア人(60万人)他、外国人学生たちへの風当たりはどうなるのか…そのために英国籍に変える人も急増。英国が2年後に完全に欧州から出て行けば、観光で行くにもビザが必要となり、関税も上がり、輸入品の値上がり、外資系企業の流失と、英国経済の低下は避けられない。
一方、スコットランドは2014年の独立住民投票で反対55% で否決されたものの、EUとの関係を重要視するスコットランドと北アイルランドとも英国からの独立の動きが再燃しそう。
EUに留まることを力説してきたキャメロン首相は辞任に追い込まれ、ジョンソン新首相となるかもしれず、ロンドンは今までのロンドンではなくなる。5月6日の地方選挙で労働党のサディック・カーン候補(56.8%)が保守党ザック・ゴールドスミス(43.2%)を破り、ムスリム系のロンドン初市長に当選した。話題となったのは、カーン新市長はパキスタン人移民2世で父親は2階建バスの運転手。自分がイスラム教徒であることを自負し就任式に聖書でなくコーランの上に手をのせている。これからは欧州の他の都市にもムスリム系市長が生まれてもおかしくない。変わらないのは今年90歳のエリザベス女王のみ。
訂正(2017-01-09):記事中、「ブレクシット」とあるのは、正しくは「ブレグジット」です。
訂正2(2017-01-09):記事中、「ファラージュ党主」とあるのは、正しくは「ファラージュ党首」です。