2016年2月3日付のフィガロ紙によると、内務省の調べでは、現在、国内でイスラム過激派と認められる者は8250人にのぼり、昨年3月の4015人より2倍。そのうち未成年者は20%を占める1632人と、教育省も動揺させられる数字が出ている。近年イスラム教に改宗(38%)したか、ムスリム系家庭で生まれ育ったか、家族の反対を押し切ってシリアに向かう娘や息子をもつ親が警察に届け出た数字だ。そして現地に行く前にスカイプなどでジハード兵と結婚しイラクかシリアに向かったフランス人女性は約220人余。家族がキリスト教徒またはムスリム系であっても若い女性たちはどうしてジハード兵に惹かれるのだろうか。フライブール大学の宗教社会学専門のジェラルディーヌ・カシュ女史のインタビュー記事(L’OBS : 15-4-9付)の抜粋を追ってみよう 。
ジハードに加わる西洋諸国の女性たちの動機は何でしょうか?
男性とたいして変わらないです。異なるのは、男性は戦士として戦場に出撃しますが、女性はもっぱら伝統的な妻として子供を産み育てるのが役割です。リーダーが選んだジハード兵と結婚すると同時にジハード(聖戦)に加わります。
どうして「イスラム国」は、女性を歓迎するのですか?
女性がいなければ国家の建設は不可能です。ジハードの影の存在と見られていますが、彼女らは消極的、補助的な役を果たすためにシリアに向かったのではありません。イスラムの国カリファを築くために次世代を産み育てなければなりません。未来のジハーディストを産み育てることで、すでに聖戦に参加しています。
ジハードの超家父長的な環境は、現代女性の意識と折り合わないはずです。1968年以後に育った女性たちがどのようにして、その対極にあるジハード兵の妻になることを望むのですか?
彼女らは、男性に服従しているとは思っていません。神、アラーに服従することですべてから解放されたと自ら認めます。そのあとに男性に従うのは、神がそれを望んだからだと言います。女性を大事にしない現代男性に比べて、聖戦の信念をもつ男らしいジハード戦士が理想化され、彼らとの結婚に強く惹かれるのです。ジハードに加わろうとする意思の根底には、彼女らが生きてきた社会、市民生活、政治などを含めて、消費文化が支配する西洋社会の退廃への反感があり、とくに女性差別を指摘します。男女平等の給与を保障するはずの給与体系の欺瞞。夏には半裸に近いスタイルで過ごす女性を何ら取り締まらず、公共の場でのムスリム女性のヴェール着布がどうして禁止されるのか理解できません 。ジハードは、彼女らの怒りを誘導するように西洋社会にフラストレーションを覚えるムスリム女性を引きつけるのです。
種々の差別への反動としてジハードを受け入れるというのには驚かされるのですが。
現代社会の若者たちは何かに依存する傾向が強くなっているようです。特に女性の位置がはっきりしないからです。女性らにどんなことを期待しているのか、個人生活、家族、職業と、すべての面で自立し独立するためには男性よりも数倍頑張らねばならないのです。ある女性は「もっと簡単な生き方を」と、自分を守ってくれる男性を望むでしょう。シンデレラ型コンプレックスは健在であり、この誘惑に傾かない女性は少ないでしょう。「イスラム国」は、女性に普通の家庭生活を課すのではなく、西洋社会に対する究極のオルタナティブ社会の革命的活動家にすることです。ジハードに加わることの容易さも魅力の一つです。ジハードに加わるのに学歴は一切必要でなく、アラブ語を知らなくてもよく、宗教に関する知識も必要としません。要求されるのは信仰心だけです。15歳でも25歳でも問題なく、「自分自身でありさいすればいい」のです。応募者に向けられる歓迎の言葉は「僕たちに関心があるのは君の資格ではなく、君自身、君の性格、僕たちの前に君がそこにいるということだけだ」。翌日から氏名はなくなりアラブ語名が与えられる。自我が吸い込まれるようにジハードのコミュニティに溶け込み、聖戦のために固く結びつくグループに一体化する感動がわき上がるのです。
「イスラム国」では性犯罪が横行していると言われていますが、女性たちがグループに加わることへのブレーキにならないのですか?
一概に言えません。なぜなら犯されるのは同じカテゴリーの女性ではないからです。白と黒というはっきりした対極のイデオロギーが支配する土地にいるのです。例えばシーア派とクルド系イェジディ族とは昔から互いに人間と見なさない敵対関係にあり、ジハード戦士がイェジディ族の女性を強姦することは戦略の一つです。
ジハードのなかで女性は結婚によってしか存在しないとなると、未亡人はどうなるのでしょうか。
殉死したジハード兵の未亡人は、後光が射すほど仲間に大事にされます。幾人かの未亡人はジハードの黒幕にもなり、重要な戦略家にもなれます。15年1月のパリのテロ犯クリバリの妻ハヤト・ブーメディエンヌのケース。彼女は「イスラム国」の仏語版プロパガンダ誌『ダラル・イスラム』で「フランスを揺るがせた戦士の妻」として紹介されており、このように彼らのメディアに載せることによって、ジハードへの勧誘と共に「イスラム国」のイデオロギーを広めるのに役立っています。
「イスラム国」で生まれた子供はどうなりますか?
統計らしきものは存在していません。出生証明書は「イスラム国」が発行しているようですが、何の価値もなく、国籍というものはありません。問題なのは、この子たちが親たちの祖国に戻るときです。最近、モハメッド・メラ(13年ボルドーのユダヤ人学校で4人を射殺)の9歳の息子がイスラエル人を射殺した写真がプロパガンダのビデオで流されましたが、彼の将来はどうなるのかわかりません。