高齢者施設の介護士たちがストに突入

「誰が親たちの面倒をみるのか?」Libération(18-1-29)

全国の刑務所(188のうち139カ所)看守の賃上げ・増員要求ストに次いで、1月30日から全国の要介護高齢者施設(EHPAD)の介護士組合がそろってストに突入した。フランス全国で介護士は約50万人いるといわれる。彼らは介護士の増員、労働条件の改善を要求している。

増加しつづける高齢者の面倒はどこまでみられるか
2016年度調べでは、要介護高齢者施設EHPADに入っている高齢者は約73万人(そのうちの30% は90歳以上)。そしてフランスではアルツハイマー型の認知症に罹っている患者はすでに100万人近くいる。高齢者介護施設に入っている人の入所期間はだいたい2〜3年だという。

介護士は医療関係の特殊免状がなくても務められる。北欧諸国では入所者1人につき介護士1人の割合だが、標準では1人につき0.8人の介護士が必要とされている。フランスは入所者10人につき6人(入所費が安い施設は10人に対し5.5人)と、介護士が手を抜かざるをえない状況に。

介護士たちは何よりも増員を要求する。ビュザン保健相は、18年度予算に計上された高齢者施設向けへの1億ユーロの新予算に5千万ユーロを追加すると1月25日に表明したが、問題の核心は別のところにありそうだ。

介護士の日常
他の職場より数倍多い介護士たちの病欠の原因の主なものは、腰痛や骨格筋障害だという。日に何度も入所者を抱きかかえる重労働だからだ。同僚の病欠代行も無理して頻繁に行わねばならないのである。入所者やその家族の口からもれる愚痴などからくるストレスも軽視できないだろう。

ル・モンド紙(18-1-30 )に掲載されたモーゼル県のある私立のEHPADで働く34 歳の女性介護士の証言によれば、63人の入所者を午前中4人で介護し、午後は2人で面倒をみるという。起床、洗面、着衣まで4分間、夜は服を脱がせ、洗面、床につかせるのに3分20秒しかない、時間と競争するなかで入所者を粗末に扱わざるをえないという。人手が足らないため週に2回のシャワーも、ひどいところでは、月に1回というところもあるそうだ。

EHPADに入るには?
要介護高齢者施設の費用は、一部が健康保険でまかなわれるにしろ、イル・ド・フランス地域なら月2500€〜3500€ はかかる。それより安い施設なら交通の不便な地方の施設に行くほかないだろう。年金でまかなえる人はいいのだが、そうでなければ自分の家かアパルトマンを売却してまかなうほかないだろう。70 年代までは子孫に不動産を相続させるのが親の楽しみだったはずだが、そうはいっていられない時代になっている。それも無理なら、親族の誰かが仕事を辞めて自宅で世話をすることになる。その場合、本人の年金や健康保険の他、介護費として国から支給される最低賃金(税込1498€/税抜1153€)相当の手当でやりくりするほかないだろう。

イタリアの高齢者介護事情
イタリアでは75歳以上の高齢者が人口の11%を占めており、2050年にはそれが25% に達するとみられる。国民の中で介護職につこうとする若い世代は少なく、90年代以降、旧東欧諸国からの移民女性の介護士が増えているという。現在すでに38万人のルーマニア人やウクライナ人、アルバニア人女性が公立施設で働いており、その他何万人もの移民女性が高齢者の自宅などで介護のヤミ労働をしており、彼女らは月1000ユーロ前後を稼ぐという。

確かにフランスもEHPADで働く介護士は、アフリカまたは海外県から来ている女性が多い。今後若年層の失業対策として、彼らには祖父母にあたる高齢者の介護職を期待できるのだろうか。この問題については、長期的な視野をもって、社会の高齢化に対応できる解決策を生み出していかねばならないだろう。日本にすでにある介護保険の義務化という道もあるのだが、今のところ仏政府の悩みは、若年・中年層の失業問題で占められているのである。