首相とペニコー労働相が新労働法を発表

8月31日マティニョンでペニコー労働相とフィリップ首相。©Jacques Witt/ SIPA-AFP

前政権以来、くすぶっていた労働法改正問題に決着をつけるため、マクロン大統領は、オルドナンス(行政命令)による労働法改正を可能にする法律を6月21日、議会で成立させた。8月31日、フィリップ首相とペニコー新労働相はそれを正式に公表した。マクロン大統領が目指すのは、従来の労使関係を見直し、被雇用者の保護よりも企業の競争力を上げるために、雇用者に有利なプラグマティックな政策に力を入れること。

労働裁判(pru’homme)を企業主に有利に
今までは、不当解雇の場合は複雑な手続きがあり、法外な損害賠償金が請求される可能性があった上、経済的理由による解雇後の1年間は新規採用できないなど、企業主には不利だった。新労働法は、まず労働裁判の申請から決着までの期間を、今までの2年から1年に短縮。次に、解雇の賠償額に上限を設定。例えば、勤続30年の社員を解雇する場合の損害賠償額は給与の20カ月分(超高給社員は別)、2年勤続者には今までは6カ月分だったが3カ月分に減額、勤続期間が2カ月未満なら賠償額は1カ月分になる。合法的な解雇には、労組が要求していたように賠償額が25%アップされる。雇用者側は経済的解雇の翌日でも新採用が可能になるため、50歳以上の社員は若年被雇用者との交替が簡単になるのを恐れる。

中小企業主と被雇用者
フランスの企業の90%を零細・中小企業(250〜500 人)が占めているなかで、従業員11〜20人の零細・小企業主は、産業部門別の組合代表を介さずに社員と直接話し合い、意見交換できるようになる。意見対立の際は、社員投票に付すことができ、多数決で決定が可能に。20〜50人の企業も、労組の代理人なしに経営者は社員代表と交渉できる。これからは零細・中小企業労働者は、労働条件などについて経営者との直接交渉に立たされるわけである。 そのため、企業委員会や社員代表システムは、企業内の「社会経済委員会」に統合される。今日、労働組合の組織率が7.7%(民間5% )にまで落ちているフランスで、労働者は労組のテコ入れも期待しなくなっているのをマクロン政権は見通しているのだろう。

多国籍企業による解雇
経営不振を理由とする多国籍企業での解雇は、従来は他の国にある同企業の財務状況も考慮に入れられたが、これからはフランス国内の企業・工場だけの財務状況が考慮に入れられる。企業の経営状態の調査・分析期間として15日間の猶予が組合側に与えられる。

新労働法に抗議デモ
共産党系労組CGTは9月12日、メランションが率いる極左「服従しないフランス」党は9月23日に、新労働法を経営者側に組し、有利にするマクロン大統領による「社会的クーデター」とみなし抗議デモに出る。社会党など左派諸派は個人的に参加するが、他の労組は労働法の全部に賛成しているとはいえないが、CGTのデモには加わらないよう。

ミュリエル・ペニコー新労働相のプロフィール
今年55歳,ヴェルサイユ出身。歴史、教育学、心理学を専攻。83年メス市の若年層の社会同化政策責任者。91年オブリ労働相の職業訓練政策顧問。93年ダノン(乳製品)グループ、03年航空機メーカー、ダッソー・アビアシオン(人事課)、08年ダノン人事部長、中小企業振興のための公立法人「ビジネス・フランス」代表、通信大手オランジ総務部長、国鉄SNCF取締役メンバー、教育・経済評議会代表…と、公職・民間での幅広い職歴を持つペニコー女史を、プラグマティックな政策を重視するマクロン大統領が労働相に抜擢。

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