8月25-26日、アイルランドのダブリンで開催された「第9回世界家庭大会」を前にフランシスコ教皇が8月20日付で7カ国語で公開した「神の民への手紙」は、冒頭文「わたくしは、多くの聖職者が、権威と信仰心を乱用し多数の未成年者に加えた性虐待により多くの人々に与えた深い苦しみを認めます」で始まる。
1990 年代以後、全世界のカトリック社会を揺るがせてきた聖職者の小児性愛スキャンダルを今年に入ってメディアが大きく扱っている。ちなみに1990 年から2000年にかけてアイルランドの聖職者による性虐待未成年被害者は1万4500人にのぼる。カトリック諸国で1960年代以後、性虐待の疑いをかけられた聖職者は数万人、その犠牲者は何十万人におよぶ。それらは大司教、枢機卿など上位の責任者たちが目をつぶり、見逃し隠蔽してきたのだ。
2018年の聖職界危機の始まりはチリから
18年1月、チリを訪れたフランシスコ教皇を待っていたのは、サンティアゴのブルジョワ地区で数十年保守派エリートに強い影響力を持ってきたカラディマ神父に1980〜90年代、10歳くらいから性虐待を受け、屈辱の沈黙を守ってきた3人の神父(43-55歳)、カルロス・クルス神父、妻帯者ハミルトン神父、ムリリョ神父はカラディマ神父を告訴したが、当局とカトリック聖職界の癒着は根深く耳を貸す者はいない。バチカンも無視してきた。だが市民の教会に寄せる信頼度は、統計によると2010 年の61%から17年には一挙に36%に急落。同年5月15日バチカンに招かれたこの3人の神父はフランシスコ教皇に辞任願いを出し認められた。その直後チリの神父34人全員も辞任願いを出した。8月23日付のルモンド紙によれば、既婚のハミルトン神父は、2010年10月に教皇庁の裁判で、彼の婚姻は、「カラディマ神父による性的虐待・精神的洗脳による人間破壊による結婚」とし、結婚を無効とし、カラディマ神父被告の罪を認めた。判決は「信仰と改悛のための隠居生活」だった。一般信者への聖職者の性虐待容疑に対し、カラディマ神父は被害者の沈黙と交換に金で払い、告訴を逃れてきたと言われている。
アメリカでも聖職界のスキャンダルが噴出(*)
8 月14日、ペンシルバニア州の大陪審が明らかにした報告書によると、1940年から2000年までの過去60年間に約300人の神父が合わせて計1000人の未成年者に性虐待を与えていたという。そのほとんどは時効となっているが、大陪審は未成年者性虐待容疑のあった聖職者名リストを発表した。またワシントン司教区の88歳のマッカーリック司教の未成年者だけでなく成人信者にまで及んだ長年の性的虐待はあまりにも有名。7月28日フランシスコ教皇はついに同司教の辞任願いを認めざるをえなかった。7月 30日、オーストラリアのウイルソン大司教(7月3日ある聖職者の性虐待の隠蔽容疑で1年の禁固刑に)も辞任願いを出し、次々に自らの過去の行いを顧みて多くの聖職者の教皇宛ての辞任願いが相次ぐ。
04年米国カトリック教会が発表した報告書によると、1950年〜2002年の間に聖職者11万人の4% にあたる4400人が延べ1万1000人の未成年者(67%は11〜17歳)に性虐待を犯し、裁判により教会は被害者に合計20億㌦にのぼる損害賠償金を支払った。ペンシルバニア州の大陪審は、未成年者性虐待罪の時効を現在の20年から30 年に延長することを提案している。一方、元ローマ教皇庁駐米大使ヴィガノ大司教は、教会ヒエラルキーの腐敗体質を指摘し、フランシスコ教皇の辞任を要求するまでに至っている。
フランスで未成年者性虐待の疑いのある聖職者を他の司教区に異動させたり、ボーイスカウト担当にしたりして保護し、告発することを怠ってきたリヨン司教区のバルバラン枢機卿の裁判は今年4月に開かれる予定だったが、2019 年1月に延期された。
フランシスコ教皇はホモセクシャルを精神異常者とみなす
8月26日アイルランドからローマに戻る航空機の中で「ホモセクシャルの子をもつ親への助言は?」というジャーナリストの質問に、教皇は「祈ることです……。少年期にそれがわかったら、児童精神科医の相談に頼ることです……ホモセクシャルの子どもを無視することは親の落度となります」と答えたから、多くの欧米諸国で同性婚が認められている今日、教皇の現代社会からの遊離がますます顕著になっていきそう。
*02年ボストングロープ紙が聖職者80人の小児性愛スキャンダルを暴露した。それを映画化したのがトム・マッカーシー監督の『スポットライト世紀のスクープ』)。当ブロッグ(2016-03-31)「仏版『スポットライト』は可能か?」を参照。