現代のラスティニャック、ベルナール・タピ物語。

2012年ベルナール・タピ

 ベルナール・タピが、バルザック著『ゴリオ爺さん』に出てくる「出世のためならどんな手も使うラスティニャック」に譬えられるのは、彼が1960年代から今日まで金儲けのためなら何でもやりこなす一匹オオカミであり、今日、大のクレディ・リヨネ銀行を相手にクモの巣のように複雑な係争に、肺ガンにもめげず最後のエネルギーを注いでいるからだ。

 1943年パリ郊外ブラン・メニールでフライス盤組立工の父と介助士の母の間に生まれたベルナールは、技術高校出というが確かでない。徴兵の後、まず東駅近くにテレビ販売店を開く。66年歌手として『太陽へのパスポート』や『もう女性を信じない』などの45回転レコードを出す。同時にカーレースにも挑戦。70年ドゴールの元顧問ロアショ氏と廉価の家電販売店を開くが、彼は経営権乱用罪容疑に問われる。74年SOS Médecins(緊急医サービス)を真似て「心臓病患者アシスタント」を始めるが挫折し、「大手には叶わない」が口癖に。

 79年以降、破産寸前の企業を「1フラン」で買収しては、1年後に転売し多額の利ざやを手にするタピ流の儲け方が始まる。こうして家庭・レジャー用品製造会社マニュフランスや自転車のLook社などを買収・転売してはぼろ儲けするビジネスマンに。79年、仏政府が回収した、中央アフリカのボカサ元大統領が仏国内に所有する4つのシャトーを購入(後に返却命令が下る)。この頃、すでにタピは8千人の従業員を雇い、年商1700万ユーロを上げる大事業家に成長。

 80年代にバラエティショーの司会者にもなったタピは、ジバンシー所有の私邸を購入、すでに仏女性たちが憧れる有名人になっていた。残っている分野はスポーツ。83年自転車レースチームのスポンサーになり花形レーサー、ベルナール・イノーを抱える。86年マルセイユのサッカーチームOMのオーナーになり、93年バレンシエンヌ対OM試合が八百長沙汰になり、95 年、拘禁2年の刑(実刑8カ月)を言い渡される。服役中、『モンテ・クリスト伯』を熟読したタピは、出獄時に「自分はエドモン・ダンテスだ」と叫び、敵への復讐を誓ったという。

 テレビや映画(ルルーシュ作品にも出演)でも活躍し、当時アラン・ドロン以上に人気のあるタピにミッテラン大統領も惹かれた。89年国民議会議員選挙に当選し、大衆受けする郊外出身のタピは、92年都市担当相に任命された。2000年、次のタピの野心はメディア界に向けられ、プロヴァンス紙グループを買収し89%の株主となる。

アディダスをめぐるクレディ・リヨネ銀行との世紀の係争。

 野心満々のタピが次に挑戦したのはアディダスの買収だった。そのためクレディ・リヨネ銀行から当時20億フラン(現相場3 億500 万ユーロ)を借り入れ、同銀行にアディダスを3億1500万ユーロで売却した。一躍億万長者になったタピは、サントロペの豪邸や大型クルーザー、飛行機まで購入し、カネの使い道に迷うほど。

 それから20年間続くタピ-クレディ・リヨネ係争が始まる。同銀行はタピからアディダスを購入した翌年、サッカーファンのスイス人事業家ルイ-ドレフュス 氏にアディダスを約7億ユーロで売却した。銀行に騙されたと怒るタピは同銀行に2億2900万ユーロを要求するが、銀行は倒産寸前の状態にあった。そこでサルコジ政権は同銀行の負債整理コンソーシウム(CDR)を設け、アディダス問題をめぐる係争を委任した。

 2年後、タピは仲裁裁判所にCDR/同銀行の不正取引を訴えた。 05年、同仲裁裁判所はさらにCDRに対し、タピに1億3500万ユーロの損害賠償金と利子の支払いを命じた。

 解決口のない、この係争に対しタピは、第三者による調停を依頼した。調停関係者はタピ自身の他、彼の弁護士ラントゥルヌ氏、当時のリシャール経済相官房長(現通信オペレーター、オランジュ社長)を含む計6人の調停者からなる。調停の結果は、タピへの損害賠償金として2億8500 万ユーロ(精神的損害賠償金5400万ユーロを含む)に利子も含めると、タピは総額4億400万ユーロを得たことになる。調停者らは調停コミッションを受け取っている。

 2015年の上告審は、上記の私設調停委員会には不正取引の疑いがあったとし、調停者らを起訴した。タピには彼が得た4億400万ユーロの弁済を要求する。同時に私設調停当時、サルコジ政権の経済相だったラガルド現IMF総裁は、何ら手を打たなかったということで「職務怠慢」容疑となったが、最終的に放免された。タピがミッテラン以来の大統領、特にサルコジ時代に50回以上もエリゼ宮に足を運んだというから、この問題は大統領にも通じていたはず。3月11日に開廷した パリ軽罪裁判所での公判は4週間続き、タピを含む6人を「公金横領」、「詐欺」容疑の主犯、共犯として裁くはず。

 20 年間タピが引きずってきた係争で、何度踏まれてもへこたれない不死鳥のごとき現代のラスティニャック、タピは復讐心燃える『巌窟王』のエドモン・ダンテスを演じる気構えだ。

 

(4月8日追記:)

*ベルナール・タピ – クレディ・リヨネ銀行係争で、私設調停にあたった6人の被告への求刑が4月1日に公表された。私設調停には集団詐欺工作があったとして、検察側は「詐欺」「公金横領」容疑で予想以上に重い刑罰を刑求した。タピには禁固5年、及び2015年に下った所得税追徴課税額4億400万ユーロの決済を要求する。92歳のエストゥ・ベルサイユ控訴院元院長には禁固3年。リシャール元経済省官房長に禁固3年(執行猶予18カ月)、罰金10万ユーロ、5年間公職就任禁止。トッチCDR元会長にも同様の刑期と罰金5万ユーロ。ラントゥルヌ(タピの弁護士)には執行猶予付禁固3年。最終判決は7月9日に下される。