弁護士も医師も教授も男だけの職業ではない…。

アカデミー・フランセーズの男女差別主義をくつがえす。
80年代以降、女性が警官や兵隊・消防士にもなり、県知事や市長、代議士にもなり、大臣にもなり、たとえば司法界などはどちらが多いとはいえなくなってきている。幼稚園の保育士の90%は女性保育士(保母は死語に) だ。1635 年、今から500年近く前にアカデミー・フランセーズがフランス語の辞典を作成した時代は、これらの職業は全部男性のものだった。つまり今問題になっている〈écriture inclusive〉(包含的人称複数形)は男性形で包括されており、中性的であるべき職業名にも女性の姿は無視されていると、男女平等論者は主張する。

職業名の中に女性形も入れなければ不公平。
フェミニズムと共に浸透してきている男女平等主義は、昨今激化している女性に対する性暴力・セクハラ告発運動だけでなく、各種職業の総称が男性形(docteurs, avocats, pompiers….)であることに不満なフェミニストによる職業名の女性化運動を引き起こした。小学校で男性形と女性形を区別して教えようとする教員だけでなく、社会的男女差別(同種の職業でも女性の給与は23%低い)をまず言語から改革しようと、2015 年、男女平等高等評議会が2千語ほどの男女両性が含まれる複数形の手引きを公表した。それを基に今年3月にアティエ出版社が、男女が含まれる複数形には中間点(point médiant)を入れて女性複数形を追加した、小学3年生の国語の教科書を出版した。例として、etudiant.e.s/docteur.e.s/ avocat.e.s/écrivain.e.s/auteur.e.s/enseignant.e.s/sénat.rice.s/chef de serviceは、chef.fe.s de serviceとなり、tous les salariés はtou.te.s les salarié.e.sになる。さらにDroits de l’homme〉は男性だけの権利ではないので〈droits humains〉か〈droits de la personne humaine〉とすべきだという。

フランス語の男女平等化にアカデミー・フランセーズが警笛を鳴らす。
〈écriture inclusive包含的人称複数形〉に女性形を加えることに反対するフィリップ首相は11月21 日、公文書では包含的人称複数形に女性形を加えることを禁止する通達を官公庁に送付した。それに対する賛否論が沸騰。職業名の女性化への動きに対してアカデミー・フランセーズも黙ってはいられず、10月27日付で警告文を公表した。「…つづりや言葉の結合(シンタックス)規則の変更は、言語の不統一と表現の不調和を招き、判読を難しくし混乱を招くのは必須。職業名の両性表現の目的が不明であり、読み書き、視覚的表示や発音の障害をいかに克服できるのか分らない。教育者の任務をさらに重くするだけだ。…アカデミー・フランセーズはフランス語のお目付役ではなく、未来につながるフランス語の保証人として警告する。非常識な両性複数形表記という傾向の前でフランス語は死滅の危機に瀕している…」

哲学者や言語学者も反対するなかで、哲学教授ラファエル・アントヴェンなどは「平等主義による構文破壊」による「洗脳」として強く批判する。議会でブランケー教育相は、フランスには「唯一の言語、唯一の文法、唯一の共和政があるのみ」と明言している。
 
フェミニズムが高まるなかで、1984年に女権省ができ、1999 年、2012年の通達は官公庁の文書内で〈Mademoiselle〉を廃止し、女性は全部〈Madame〉にすること、〈nom de jeune fille(結婚前の女性名〉や〈nom d’époux夫の姓名〉といった表現も禁じられた。たしかにこれらの言葉で女性を男性より蔑視していたと言える。言葉を複雑化することによって、21世紀の男尊女卑社会を男女平等の社会にするには、まだなすべきことがあるのでは、と思う向きも多いのではないだろうか。

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