右派議員を新首相に抜擢。

マクロン大統領の意図していたこと。
 最年少大統領マクロンの野望は自分が大統領になるだけではなかった。「右でも左でもない」、言い換えれば「右でも左でもある」政治を実現するため大統領の片腕となるべき首相として、5月15日、共和党議員でルアーヴル市長でもあるエドゥアール・フィリップ(46)を任命した。マクロンの目論みが政界再構成とはいえ、バロワン共和党本部長に言わせれば、再構成どころか「ダイナマイト爆破」による共和党解体作戦だという。マクロン大統領が四方八方から有能な若い民間人を寄せ集めた感じがしなくもないが、今までの政界ががらりと変えられるのは確かだろう。
 フィリップ首相がマクロン政権に身を売ることを共和党議員の中には裏切り行為とみる向きもいるが、6月の総選挙にマクロン派として立候補するため「前進する共和国 La République en Marche」党員になりたいという共和党議員や社会党(PS)議員がひしめいている。中でもマクロン派党への移党を希望したがマクロンに拒否され、社会党からも除外されたヴァルス前首相などは身を置く党がなくなり、総選挙には無所属で出るほかない。

新内閣閣僚22人のうち11人は民間人、男女半々。
 5月17 日発表の新閣僚は、まずコロンブ=リヨン市長(PS)が内務相。2月以来マクロンを支持し合併を提案した中道派バイルー(MoDem党首、ポー市長、元教育相)が法務相。注目されているのは、テレビのエコロジー番組でも国民に親しまれてきたニコラ・ユロがエコロジー移行相。彼は歴代大統領による入閣の誘いを拒否してきた。また御大ルドリアン(PS)国防相が欧州・外相に。後任にグラール氏(欧州議員)が国防相に。共和党主要メンバーだったブルノ・ルメール(元農相)が経済相として、サルコジの下で萎縮する共和党に嫌気がさしたダルマナン= トゥルクワン市長(34)が会計相として引き抜かれたのも共和党にショック。サプライズはまだ続く。文化相に出版社ACTE SUD社長ニセン氏。スポーツ相は、フェンシングで2回五輪金メダルを受賞したローラ・フレセル氏。22人のうち6人が国民議会議員であり、彼らは6月の総選挙に立候補するが、フィリップ首相も落選したら内閣を去らなくてはならない。新閣僚の何人がその後も任務を続けるのか分らない。

フィリップ首相の経歴
 フィリップ新首相(46)は02年、右派諸派が連合して創設した民衆運動連合(UMP)の総裁にジュペ=ボルドー市長が就任した時からジュペ派として、先の保守派大統領候補選挙までジュペの側近だった。ジュペは大統領選には出られなかったが、フィリップが首相に任命されたことをひそかに喜んでいるはず。
 エドゥアールの祖父は元港湾労働者、曽祖父はルアーヴル最初の共産党員だったという。彼はルアーヴル市長になる前の3年間、アレヴァ(ウラニウムを開発する国営企業)に勤務。ウラニウム関係とは!と、エコロジー派の中にはマクロンのリベラル路線を警戒する向きも。ちょうどマクロンがオランド前大統領に採用される前にロチルド銀行幹部だったのにも似ている。

フィリップ首相は作家でもありボクシングもたしなむ。
 フィリップ首相は、代議員職のかたわら、ジル・ボワイエとの共著を含めすでに3冊(”Dans l’ombre”、”L’heure de vérité”、”The Runaways”)を出版している。それらは「テクノクラート(技術官僚)による政界サスペンス小説とも評され、事実すれすれの視線で政治家たちの欺瞞や裏切り、政界の裏側が書かれている。同時に日刊リベラシオン紙に時事解説を掲載していた。今年1月のある号に出た彼の記事がマクロンの目に止まったのが、二人の関係のきっかけになったとか。首相は週3回、町のボクシングジムに通い、3人の子供を持つ。1 日に25時間あっても足りなそう。