マクロン政権が花形大臣、ユロ環境移行相を失うとき

「ユロ前環境相は正しかった」(Libération : 18-8-29)

 8月28日朝8時の公営ラジオ放送、フランス・アンテールのインタビューで、スター的大臣、ニコラ・ユロ環境移行相が突如、「環境相の座を辞任する」と宣言したのには、デンマーク訪問中のマクロン大統領もフィリップ首相も寝耳に水、後者はこの放送で知った。
 就任15カ月だったが、長年民放TF1局の自然探索ドキュメンタリー番組「UshuaÏa」の司会者を務めたエコロジスト、ユロ氏を閣僚に抜擢したのは、脱政党主義を謳うマクロン政権のシンボル的存在だったから。しかし、どの大統領の政権にも加わろうとしなかったユロ環境移行相を待っていたのは、エネルギー問題を始め、農業、動物保護、原発問題、化学肥料、50年続いたノートルダム・デ・ランド空港建設問題(18年1月に撤回されたが)、狩猟規制…とあらゆる分野で予想以上の各界圧力団体がひしめく環境省だった。

原発問題
 環境移行相就任直後、ユロ氏は2025年までに原発依存度を50%にまで下げ(マクロンの公約)、原発を現在の52基を17基に減らすと表明したが、そもそもフィリップ首相が原子力企業アレヴァの元幹部だっただけに、核エネルギー削減問題はほとんど進展しなかった。目標年は2030年か2035年、実際には2040年の見通しで、当初の目標からだんだん離れていく。その上、近年中に欧州加圧水型炉3基の建設が予定にされており、ユロ環境相はますます悲観的になっていたよう。
 集合型風力発電ウィンドファームも他国に遅れをとりフランス国内でまだ5400基にすぎない。農業国フランスの草原は牛と山羊たちが草を食む地でありウィンドファームのごう音は家畜には迷惑と、70%の設置予定地で住民との係争が起きている。6月に沿海6カ所でウィンドファーム・パークの建設が決まったことがユロ環境相にとってわずかな慰め。また石油利用の削減のため、2040 年までにガソリンとディーゼル利用車の販売を禁止することが決まったくらい。

環境移行相の役目は圧力団体に抗する闘いだった
 いちばん圧力団体の力が働いたのは、狩猟界とそれほど関係が深いとはいえないマクロン大統領が全国狩猟界の大物、ティエリー・コスト氏をエリゼ宮に招き、ユロ環境相が反対する猟犬使用の狩猟促進に同調したことだ。狩猟ライセンス料を現在の年400ユーロから半額200ユーロに下げるなど狩猟愛好家には願ったりの狩猟促進策を約束する。都会投票者の多いマクロン大統領が地方・山岳地住民の票を狙っているのは明らか。ユロ環境相辞任の直接の動機はこのへんにありそう。
 世界でいちばん使われている除草肥料グリホサートはフランス全国で年8千㌧使用。発がん性があるとされる有害なグリホサートの使用を国連はこれから5年延長としたが5月下旬、仏議会はグリホサートの禁止を拒否した。
 またパーム油については、20年来熱帯地域、特にマレーシアやインドネシアから、仏製軍事品の数十億ユーロ販売の見返りにパーム油を大量に購入しており、南仏の石油精製工場トタルグループでは、パーム油を使った植物性ガソリン30 万㌧が精製されているほか、スーパーで売っている菓子他、食品にパーム油を使っていない食品はない。こうして南米や東南アジア諸国はアブラヤシ単一栽培のための熱帯雨林の伐採が続く。この分野でもユロ環境相の理想と相反する経済圧力が幅を利かせる。

難航したユロ環境移行相の後任選び
 大統領にも首相にも予告もせず環境移行相の座を去ったユロ相の後任は? すぐにマクロンの頭に浮かんだのは69年騒動の主役、以後ドイツエコロジー勢力の中心的政治家になったコーン= ベンディット。マクロン大統領の誘いになびかなかったコーン=ベンディットは、マクロンとは政治的波長が合わないし、政権のお飾り的大臣になることを拒否した。最後に残った後任候補は、ヨーロッパ・エコロジー=欧州緑の党の中心人物だったフランソワ・ドリュジ国民議会議長。はったりをきかせるタイプでないドリュジ議長は、ヨーロッパ・エコロジー=緑の党から社会党支持者になり、最終的にマクロン派に合流したカドのない無難な政治家。ドリュジ新環境相が、ユロ前環境相が達成できず成果の見られなかったエコロジー政策をどこまで遂行できるか、政界も国民もあまり期待していないよう。