パリ空港(ADP)民営化に反対する議員の最後の切り札。

 PACTE法(企業変革振興法)の一貫として、3月14日に採択されたパリ空港(ADP)民営化に関し、「フランスの玄関」、巨額の利益をもたらす「金の卵」、ロワシーとオルリー、ブルジェのパリの3空港を民営化することに反対し、4月9日、上下院の野党全党の議員218人が最後の切り札、「共同発議国民投票RIP」を要求した。

 RIP(Référendum d’initiative partagée)とは、08年の憲法改正によって設置され(議員185人の署名が必要)、今回実現すれば初めての実施となる。RIPが実施されるまでの行程は、憲法評議会が1カ月以内にその適法性を審議し、法に違反しないと確認した後、9カ月以内(2020年春まで)に有権者の10%に当たる約460万人の署名を集めなければならない。署名が集まったら、その後6カ月以内に国民議会または上院の審議を経るので、まだRIPが実施されるかどうか明らかでない。全ての難関を通過した後、ADP民営化の是非を問うRIPが行われるのだが、司法専門家によると、その時期は2021年1月頃だという。英EU離脱(ブレグジット)国民投票もこれだけの難関を経ていたなら、ブレグジットはそう簡単に実現されなかっただろうと思う。

高速道路民営化の失敗例。

 政府はパリ空港(ADP)の50.63%株を所有しているが、欧州連合の競争法に沿って、ADP民営化政策を進める方針だ。ルメール経済相は、ADPのコンセッション(管理・経営)契約期間を70 年期限とし、治安や警備・警察権、税関はあくまで国家に所属するので心配ないと議会で説明するが、空港が民営化されると、航空会社の空港使用料や空港税なども上がる可能性があり、ADPを利用する国内線なども減少し、合理化による従業員削減によりサービスなども低下するのではと市民は危惧する。

 議員らがADP民営化に二の足を踏まざるをえないのは、06年シラク政権時にドヴィルパン首相が行った高速道路民営化が裏目に出た例があるからだ。全国7000キロに及ぶ高速道路を管理する高速道路会社の政府保有株をヴァンシグループ(116カ国の公共事業)、エファージュ(土木建設)、スペイン系アベルティス(インフラ建設)の3社に148億ユーロで管理・経営権を安売りした。当時のインフレ率1.9%に対し08年の高速料金は4.32%値上げされ、毎年平均2.2%値上げされている。ニース西部を掌握するヴァンシグループの子会社エスコタ社が管理する高速道路は毎日14万車が利用しており、ドル箱になりつつある。

 欧州内の交通量が際限なく増え続ける今日、民営化以来、高速道路を管理する3社は2011年だけで20億ユーロの純益を上げている。そのうちの10 億ユーロは株主に配当金として支払われているという。料金所のほとんどがカードによる自動支払いになり係員が削減された。11月中旬から5カ月余り続くジレ・ジョーヌ参加者たちが、各地で高速料金所の破壊行為に出た理由がわからないでもない。ガソリンの値上がりとともに、株主の配当金のために高速料金が定期的に値上げされることへの恨みもあったのだ。

 ドヴィルパン元首相は長期的な観点でなく、当時の財政赤字の穴埋めのために民営化を当てにしたのだろうが、左派議員の中には、高速道路の再国営化を提案する議員もいる。再び国営化するとしたら最低390億ユーロの資金が必要とされている。

トゥールーズ空港の中国資本への身売り問題。

 中国のコンソーシアムがアフリカ諸国の建設業はもとより、フランスのワイナリーやシャトー、企業を手中に収めているほか、中国資本が目をつけたのは仏5位のトゥールーズ空港。年平均1千万人近くが利用している同空港はドル箱になりつつあるのである。
 2014年12月、中国コンソーシアム・カジル・ヨーロップは、トゥールーズ・ブラニャック(ATB)空港の部分的民営化の際に49.99%の株を3億800万ユーロで買収した。国家が10.01%を所有し、残りの40%は地方自治体や地方圏・県が所有。しかし空港管理経験に乏しい同社は、買収4 年後の2019年初期に持株を手放す意向を表明した。カジル・ヨーロップは、4年間に1500万ユーロの純益を上げているのだが。持株49.99%の譲渡価格を5億ユーロと見積もっている。中国コンソーシアムは外国資産を買収しては、数年後に売却し、その利ざやが雪だるま式に増えていることになる。

 トゥールーズ空港から中国資本が去った場合、次に同空港の買収を狙っているのは、まずヴァンシグループ、エファージュ社、バンク・ポピュレール・オクシタンヌなどの金融機関、パリ空港(ADP)など約20グループが候補リストに上がっている。世界規模の資本の動きの中で、モノポリー式に中国資本の目のつけどころと損得計算の早さには、EU諸国の企業もおちおちしていられない。最近の習近平(シー・ジンピン)中国国家主席の欧州諸国訪問の目的は、将来中国から欧州諸国をつなぐ欧州シルクロード建設のための各国首脳(イタリアとは折衝済み)との接触にあったとみられている。

パリ・シャルル・ドゴール空港

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