バルセロナ市長の座を狙うマニュエル・ヴァルス

 マニュエル・ヴァルスは、オランド政権の元首相。2017年大統領選でマクロンが当選し、もしやマクロン政権に彼の政治体験が役に立つのではないか、何かの省の閣僚にでもしてくれるのではないかと、衰退しつづける社会党からマクロンの党「共和国前進」に鞍替えし、同党の議会議員席を保持した。しかし政界はそう単純ではない。マクロン大統領が目指したのはイデオロギーや派閥を乗り越え、民間人も入れたプラグマチックな政治を遂行することだった。社会党にも共和国前進党にも招かれざる政治家となったヴァルスは、長年(2001-12)務めたパリ郊外のエヴリー市長の座もあきらめ、9月25日、イヴリーヌ県選出の国民議会議員を辞任し、2019年5月26日のバルセロナ市議選に立候補し市長の座を目指すと宣言した。西洋諸国で、一国の元首相が他国の市議会選挙に立候補する例はいまだかつてないので、その勇気が注目されている。

スペイン・フランス二重国籍をもつ政治家
 マニュエル・ヴァルス(56歳)は1962年、画家の息子としてバルセロナに生まれ、18歳の時、フランスに来て82年フランスに帰化した。ソルボンヌ大学で歴史を専攻。学生時代にミッテラン政権初期を見て社会党のロカール支持者に。首相時代は、エヴリーという地元のムスリム人口の増加からか、イスラム原理主義の胎動時期にあったフランスで内相も務めたこともあるヴァルスは、フランスに広まるイスラム過激派サラフィストの進出を警告し続けたものだ。
 今日、マクロン大統領にも彼の存在が無視され、何ら発言権を持たないヴァルスの行き場所は、自分の生地、カタルーニャの州都バルセロナしかないようだ。9月23日、ヴァルスの方向転換についてのニュースはテレビでほんの数秒,メディアもフランスを去りゆく、日和見・ご都合主義(オポルチュニスト)を地でゆく政治家の行方にはたいした関心を示さないよう。
 1992年マーストリヒト協定により、欧州連合加盟国市民は一つの国に帰化しても元の国で投票・立候補できるのである。従って来年5月に行われるバルセロナの市議選にヴァルスは、カタルーニャの独立に反対する中道右派シウダダノス党から立候補するそう。最初の妻との子どもを持ち2度離婚後現在の恋人は、カタルーニャの著名な薬品会社アルミラル社の後継者。でもバルセロナでの知名度も低いヴァルス。元仏首相として売り出したとしても、それでバルセロナ市民の何パーセントが投票してくれるだろうか、足場もしっかりしているとは思えないヴァルス候補の未来像が見えてこないのだ。しかし同市議選に落ちたら? どこに行く? スペイン語・フランス語・カタルーニャ語・イタリア語を話すエネルギッシュなヴァルスのことだから、大学教授の道も残っている。

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