イスラム学者も女性被害者の槍玉に。

オフィスのブタを告発「沈黙の掟を破った女性たち」/タリック・ラマダン「ムスリム社会の沈黙」
(リベラシオン紙 : 2017-10-30)

女優を手玉にとる映画界のセックス・スキャンダル告発の嵐が欧米に吹き荒れるなか、その怒涛の波はついにムスリム社会にまで及ぶ。スイス生まれのイスラム学者タリック・ラマダン(55)に、2000年代にレイプ、性暴力を受けた2人のムスリム女性が、欧米の性暴力告発旋風に勇気づけられ、イスラム界の第一人者を告発したのだ。

タリック・ラマダンとは。
両親がエジプトからスイスに亡命し、1962年ジュネーヴで生まれたタリック•ラマダンの祖父はエジプトのムスリム同胞団創立者ハッサン・アル=バンナ。ラマダンはジュネーヴ、そしてエジプト大学でイスラーム学博士号を得、90年代から現代イスラム教の権威としてメディアの前面に。 イスラム原理主義とヒューマニスト的反人種差別主義者という二枚舌が批判されることもあるが、後者の思想が左派知識者層の支持を得、彼を現代イスラム学者として成功させた。欧米の大学(同志社大でも講演)で講演を重ね、政界でも注目され(ブレア元英国首相も相談を請う)、6年前からオックスフォード教授だったが10月8日、大学との協議で休職に。フランスでも2000年初期からメディアで珍重され、彼以外にイスラム問題を語れる学者はいないとまで言われてきた。L’OBS誌(17-10-9)は、ラマダンと宗教に関す対談書を出したこともある哲学者エドガール・モランらの、ラマダンの女性支配のマッチョ性についての意見を掲載。哲学者はラマダンの「原理主義的理論と誘惑者の非道徳的行為との矛盾を見ないわけにはいかない」と指摘している。

性的衝動に勝てなかったイスラム学者。

10月20日、タリック・ラマダンを告発したのは、40歳の離婚女性エンダ・アヤリさん。以下はパリジャン紙(10/30 )に掲載されたインタビューのあらまし。2012年、サラフィストの夫との間に子供3人がいるが離婚訴訟で親権も住居も仕事も失い、職安でスカーフを被らない方が仕事が見つかると言われ、1日5回の礼拝も止めていた。ラマダンに「男の目を引くのは罪悪だとフェイスブックで注意され、スカイプで接するようになった。ある日講演後、彼から電話があり、パリ東部にあるホテルで話をしないかと言われ、宗教の話から私的な話に進むや突如私に飛びかかり、首を絞め、私が抵抗したので顔を殴り、犯した」。アヤリさんはこの悪夢を、昨年出版した手記『J’ai choisi d’être libre 私は自由を選んだ』で相手をZubeyrという別名で実体験を書いたが、告発した日にラマダンだと明らかにした。彼女は現在フェミニストとして「解放女性」というアソシエーションを設立。ラマダンの弁護士はアヤリさんを誹謗罪で訴えた。

その数日後にラマダンを告発したもうひとりのムスリム女性(45)も09年、カリスマ性があり魅力的なイスラム学者から講演後電話があり、上記と同様のシチュエーションをリヨンのヒルトンホテルで体験している。主要メディアが報道した彼女の証言によると、「全身を殴り、フェラチオ、ソドミーを強要し、髪を引っ張って引きずり回し、浴槽で私の体に放尿した」という。予審判事はラマダンに対し「性暴力、強姦、脅迫」などの容疑で予備捜査を開始した。被害者女性2人の弁護士は、さらに未成年者を含む20人ほどの女性がラマダンを告発していると発表。ムスリム市民の中にはラマダンを槍玉に上げることはイスラム社会全体を攻撃することだと、ネットでもラマダン支持者とラマダン懐疑派に分かれて議論が加熱する。


ムスリム社会全体を敵にまわす?

ムスリム社会の第一人者ラマダンを告発し、顔に泥を塗った2人の女性に対し、ムスリムから罵りと脅迫の声も上がっており、ラマダンの弁護士はこれらの告発はシオニスト(ユダヤ主義者)の陰謀だとする。イスラム社会では4人まで妻を持てるがそれでは足りず、妻子持ちのラマダンも、ワインスティーンのようにホテルの寝室で女性を犯すという、性的衝動に勝てなかったのか。男尊女卑の悪習が今も続いている。というのは、1970 〜80年社会党政権の内相・国防相・憲法評議会メンバーと要職を重ねたピエール・ジョックス氏も、オペラ座の席で横にいた女性にセクハラした事実が明るみに。男性陣はいつ自分が槍玉に上げられるかわからず、びくびくしているのでは。

セックスが支配する男女関係を変える新しい革命が芽生え始めている。今日、女性たちは過去に受けた忌まわしい恥辱をフェイスブックで暴露し、性暴力、レイプ容疑者に復讐の集団リンチを与えることもできるのである。

最後に付け加えておきたいのは、11月1日付のシャルリ・エブドが表紙にタリック・ラマダンの大砲よりでかいペニスのイラストを掲載したことで、イスラム教徒から「死の脅迫状」が届いていることだ。