進学希望者が入りきれないフランスの大学。

「大学入学のタブーが破れる」(L’OBS : 17-10-26)

この夏、7月から10月になっても約6万5千人のバカロレア合格者が希望の学部に入れず、大学によってはくじ引きで入学生を選ばざるをえないということで、学生・父兄の間に不安と動揺が高まった。ナポレオンが1808年に制定したバカロレアに合格すれば、誰もが大学に無料で入れるという神話が300 年後に崩れる。日本のように入試のないフランスはバカロレアで間に合わせてきたといえる。

バカロレアの普及
80年代にバカロレア合格者が急増し、大学進学者もうなぎ上りに増え大学が大衆化していった。1986年、大学入試を設けるというデュバケ法案に数百万の高校・大学生が抗議デモを繰り返し、同法案がボツになった過去があり、高等教育の改革はどの政権でもタブーになっていた。86年のバカロレア合格率は29%だったのが、今日、バカロレア受験者73万人中、64万人が合格(88%:普通コース50%、職業コース30%、技術コース20%) 。進学希望者があふれ、全国の高等教育施設が学生を収容しきれなくなっている今日、学生登録に選考システムを設けるべきだという声が出始めている。
10月26日付 L’OBS誌が掲載したIpsosの統計(9/29-10/3の調査)によると、66%が「大学入学を選考システムにすべき」と答え、34% が反対。「学部を選ぶ動機と高校での成績を基準にすべき」と答えた人は92%、「高校で学んだ課目の成績を考慮に入れるべき」は84%。「課外活動経験を考慮に入れるべき」は55% 。「居住地を考慮に入れるべき」は47% 。くじ引き方式には80%が反対している。

大学生の脱落
高3での進路選びの誤りからか、マンモス教室でやるきをなくすのか、バイトと重なり追いつけなくなるのか。今日、学士課程(3年)の1年目に50〜60%の生徒が脱落し、2年に進むのは30% にすぎない。つまり大学1学年を終了するのは30%、中退するのは30%、残りの30%は学生証を保持するだけのユウレイ学生に。
ひとつ付け加えると、1989年に欧州連合が創設した交換留学制度エラスムスを利用した学生は30年間ですでに約300万人。33カ国・地域の2982校が学生を受け入れ、主に語学習得のため6〜9カ月の留学を保証する。この留学滞在を終えた後、現地に留まる学生もいないでもなく、こうしてEU 人口の混交が進む。

選考制度ではなく、バックアップを強化する制度へ
元ニース大学学長フレデリック・ヴィダル高等教育担当相は、フィリップ首相の胆入りで、高校・大学関係者との数十回におよぶ折衝・交渉の末、まとめた進路・指導の改善策を10月30日に公表した。それによると、高3クラスに2人の担任教師を配し、12月から各生徒が進路希望を述べ、生徒との話し合いで進路を選び、2学期末に父兄・生徒代表も加えた学級会議が生徒の希望する大学・学部10種のリストを各大学に通知する。選択に迷う生徒のために3千人の現役大学生が高校に派遣され、3年生の指導にあたる。バカロレア合格点すれすれで受かり、付いていくのが難しいと思われる生徒には,成績の悪かった科目のレベルアップ研修などを入学前に受けられるようにするなど、バカロレア前とバカロレア後のきめ細かい個別指導が重視されるようになる。
また学士課程在学中に進路を変えたいという生徒には、希望する学部についていけるだけの1年間のレベルアップ期間を設けるなど(ナント大学などは能力に応じて2〜4年で学士課程を終えられるようにしている)、落ちこぼれを最小限にし、希望する学部のディプロムを取得できるようにするという。初・中等教育に力を入れるブランケー教育相も考えているように、2021年からはバカロレア受験科目も4科目に減らすことなども検討されている。