ISメンバーのテロとユダヤ人老婦人殺害事件

「英雄とは?」(L’OBS : 18-3-29)

3月23日、南仏カルカッソンヌ東のトレーブ市のスーパーで1人のISメンバーが従業員1人を含む3人を射殺(15人負傷)後、アルノー・ベルトラム憲兵中佐(44)と2時間以上にらみ合い、レジ係の人質女性の身代わりになった中佐に発砲し喉をナイフで刺し殺害した。28日アンヴァリッドでの葬儀で、マクロン大統領は「フランスのレジスタンス精神は、ジャンヌ・ダルクから、ジャン・ムラン、ドゴールへと引き継がれてきました」と、ベルトラム中佐をフランス共和国を守る英雄のひとりとした。葬列はフランスの偉人らが眠るパンテオン前で数分停車した。今日の政教分離、個人主義のフランスで中佐の死を「キリスト教徒的犠牲」として讃えるのはむずかしく、L’OBS誌が「英雄とは ?」と題して特集を組んでいる。ある歴史学者によると、英雄とは「個人的選択を前にしての孤独を具現するもの」とする。ベルトラム中佐は05年、日に平均60件のテロが起きていたバグダッドのホテルから仏女性を救出している。敬虔なカトリック信者でフリーメーソンでもあるベルトラム中佐は6月に教会で結婚式を挙げる予定だった。

同日、85歳のユダヤ人女性が反ユダヤ主義者に殺される

パリ11区ナシオン地区のアパートに長年住み、パーキンソン病を患っているミレイユ・クノールさんが2人の男に刺殺され、そのあと放火され、焼け跡からクノールさんの半焼死体が見つかった。窃盗罪前科のあるアレックスC(21)と、クノールさんが顔見知りのヤシンヌM(27)にはクノールさんの介護女性への性暴力罪の前科がある。2人が「彼女はユダヤ人だから金を持っているはずだ」といっていたことや、犯行時にヤシンヌが「アッラー、アクバル(アッラーは偉大なり)」と叫んだことから、反ユダヤ主義的殺害容疑者」に。クノールさんは1942年、当時の仏警察によるアウシュヴィッツへのユダヤ人送還を免れた人。上記の大佐葬儀の弔辞の中で、マクロン大統領はクノールさんの殺害に言及し、「彼女はユダヤ人であるがために殺された」と、仏史の底辺に流れる反ユダヤ主義を嘆く。

06年ユダヤ人青年、アリミさん(23)がユダヤ人であるがために不良青年グループに数日間拷問され殺された事件以来、11件の反ユダヤ主義的殺害事件が起きている。2000年744件、02年936件、04 年974件と、パレスチナ・イスラエル関係が悪化するたびに、フランスのユダヤ人を標的にした犯罪が増えており、とくにユダヤ人学校が狙われる。ユダヤ人敵視やいやがらせを恐れるユダヤ人が多く、10年間にユダヤ人口約50万人のうち6万人がフランスから他国に移住しているという。

「反ユダヤ主義:意識化、そのあとは?」(Le Monde : 18-3-30)

「Je suis Juif/ve」
アンヴァリッドでのベルトラム中佐の葬儀の日、ナシオン広場からクノールさんの住居までの通りを彼女の死を悼む数万人の人々が「Je suis Juif(ve)」 とプラカードに記し、「Je suis Charlie」 (シャルリー・エブド・テロ後のプラカード)と呼応させた。シリアのIS勢力がほとんど消滅したとはいえ、フランス国内に定着するサラフィー主義などのイスラム過激派やシリアから戻ったジハーディストや妻子たちを抱えるフランスは、30年前には予想しなかった新しい脅威、マクロン大統領も認める「内部の脅威」を抱え込んでいる。