ジハーディスト仏敗残兵の帰還を許すべきか。

アルホル収容キャンプ(AFP : 19-3-14)

 2013年以降フランスから約2千人の青年がイスラム国(IS)兵となるためにシリアに渡り、そのうち最低305人が戦死したと言われている。3月15日付のルモンド紙は、昨年末以来、ISの最後の陣地バグーズから400キロ北方のシリア民主軍(SFD)が管理するネコの額ほどのアルホル収容キャンプに、家畜輸送トラックで送られてきた6万人に上る収容者の悲惨な状況を伝える報道写真を2面にわたり掲載している。そのうちの90%は、黒布のニカーブを被ったジハーディストの未亡人と遺児たちだ。5歳未満児の3分の2は道中で死亡しているという。

 昨年暮れにトランプ大統領が米軍をシリアから撤退するとし(2月には200人の米兵の駐留を継続するとしたが)、ISの敗残兵は各出身国の法廷で裁くべきだと発表したものだから、IS攻撃の同盟国フランスや英国などは混迷。収容キャンプに保護されている未成年者収容者のほとんどは国籍不明なのだ。国連や赤十字、クルド系救援隊も救援物資の欠乏状態に四苦八苦し、国際慈善団体からの救援を求めている。

ジハーディスト=テロ犯へのフランス人の怒りは深い。
 フランスを含め各国で、元IS戦闘員の帰還を許して本国の裁判にかけるべきか、イラクの現地法廷に伏すべきか、ジハーディスト処理問題で世論は2分している。後者は、イラクの法廷なら20分ほどの流れ作業的な審議後、ほとんどは死刑となる。もしくは元IS兵はトルコ当局の網の目をくぐり、水を得た魚のように西洋諸国に侵入し、元戦友たちとIS再建の準備にかかるのではと各国民の危惧は深まる一方。

 非イスラム信徒を地上から抹消することを「アラー」に祈願し、シリアに渡った彼らとSNSで即席結婚し、新郎の後に付いて行き、半ば性的奴隷となり、いつ戦死するかわからない夫に尽くした女性たちと彼らの間に生まれた子供たちを、シリア砂漠の収容キャンプに留めておくべきかの問題が各国で浮上。マクロン大統領が、「元IS兵士は現地国の法廷で裁かれるべきだ」と表明し、3月13日、彼らの子供や遺児は「ケ−スバイケースで母親と帰国させる」と付け加えた。未成年ながら現地でカラシニコフを抱えて少年兵として訓練を受けた少年もいることから、彼らの取り扱いが非常に難しくなっている。

 フィガロ紙とラジオ局France Infoのために調査したOdoxa-Dentsu Consultingの最新の世論調査によると、フランス人の82%は、元IS戦闘員はイラクの法廷で裁かれるべきであり、未成年者もフランスに引き取ることに反対する。この問題については、マリーヌ・ルペン(RN)支持者とマクロン大統領の共和国前進党の支持者とも89%が大統領の意見に賛成、他党支持者も60〜72%が同意見だ。中には、彼らが祖国に帰還したら、仏国籍を剥奪すべきという声や、さらにフランスの治安を保証するために彼らに「極刑」を求める声も。ルペン派はフランスが子供を引き取ることに88%が反対、保守共和党派は78%が反対だ。彼らが成長した時、未来のテロリストになるのではないかと恐れるのだろう。

ジハーディスト妻子の受け入れ問題。
 生き残りジハーディストの行方を探る問題とともに、彼らの妻子や遺児の受け入れ問題に内務省も頭を抱える。2014年以来、84人の未成年者(32人は6歳未満、15人は2歳未満)がフランスの地を踏んでおり、17年3月〜18年2月までに計43人(収容キャンプで生まれた生後3カ月の新生児も含む)の未成年者が母親と共にロワシー空港に到着している。

 Express誌(19-1-30)のインタビューに応えたボビニー少年裁判所のバランジェー裁判長によると、母親は空港から即時拘置所に移送されるのだが、子供らは帰国後彼らを待ち受ける司法措置について知らされていない場合、母親の腕から引き離される幼児の衝撃は、現地での爆撃と収容キャンプで受けたトラウマが重なり、さらに深いトラウマの原因になるという。彼らはまず児童保護課に託された後、里親家庭に送られるが、彼らをジハーディストの卵、またはテロの時限爆弾を抱えさせられたと恐れる里親家族もいる。

 唯一の保護者だった母親または義母の腕からもぎ取られた彼らは、毎夜悪夢の叫びをあげ、うなされるという。彼らは自分がジハーディストらと送った数年の過去を口外せず、言葉にならない恐怖を秘めるようになる。調査官が親のことを聞くと、親たちが不利になるという恐れから口を閉ざす。彼らの日常は児童セラピストと刑務所にいる母親との面会に通うことからなり、通学でき他の児童と遊べるようになるのが最良の再教育であり、平穏な生活への復帰法と言われている。祖父母や親戚に引き取られる児童もいる。

 誰もが恐れているのは、彼らが成長していく上で、シリアで受けた恐怖が刻んだ心的外傷後ストレス障害だろう。仏史上、かつてなかった未来のテロにつながるかもしれない未知数の分子をフランスは背負い込んだわけである。帰還するほとんどのジハーディストには裁判、獄中の生活が待っているのだが、服役者が7万に上るフランスの飽和状態の刑務所での彼らの取り扱いが大きな問題となっている。刑務所内がイスラム過激思想普及の場となっているだけに、元IS兵士の他の服役者への感化、影響をいかに防ぐことができるか、イスラム系テロリスト再生の歯車との戦いと言えよう。