イタリアの政治混迷状態の突破口は?

イタリアのポピュリスト政権ジョゼッペ・コンテ新首相

(Le Monde : 18-5-25)

 ここ数年、財政赤字対策のためEU委員会から厳しい節減政策を強いられてきたイタリアではEU懐疑派が増えていた。3月4日イタリアの総選挙で「アンチシステム(反体制)」を謳う極右党「同盟」(37%)とポピュリスト系「5つ星運動M5S」とで過半数を占め、極右・ポピュリスト連立の「イタリアの春」到来、欧州内の異変となった。25年間、イタリアというと、失脚・復権を繰り返しながらメディアを牛耳る不死鳥ベルルスコーニ(フォルツァ・イタリア)という政財界黒幕が君臨し続けたイタリアにポピュリスト・極右連立政権が生まれた。

極右政党とポピュリストが手をつなぐ
 5月23日、「イタリア憲法の守護者」を自認するマタレッラ大統領は、連立両党が推挙したEU離脱を説くパオロ・サボーナ元大臣(81)の首相任命を却下したため、ドイツを始めEU主要諸国は一時的にも胸をなでおろす。そして27日、無所属の法学者コンテ氏を首相に任命したことで連立両党は「国民への裏切り」と憤慨。ユーロ懐疑派筆頭のサボーナ氏は「ユーロはドイツの牢獄」とドイツを敵と見なす。「5つ星」のディ=マイオ代表は副首相兼経済発展・労働相に、サルビーニ同盟書記長は副首相兼内相となる。6月5日に元老院(上院)、6日に代議員(下院)が新内閣を承認した。サルビーニ新内相はトランプ米大統領を手本にし、減税・難民対策などラディカルな政策を公約した。フランスのマリーヌ・ルペン国民連合(前国民戦線FN)党首は、サルビーニ同盟書記長と親しく、マタレッラ大統領の政権介入はブリュッセル(EU)が操作したクーデターと批判する。

ユーロ離脱は現実的?
 欧州委の世論調査によると、イタリアはユーロを支持しない層が30% とEU諸国の中で一番高い。「5つ星」、同盟とも選挙中、一度も「イタレグジット」(ユーロ離脱)については公言してないので、政治評論家たちも、投票者はそこまでは考えてなかったのでは、と英国のEU離脱の例に比べる人は少ない。誰しもドミノ式に他のEU諸国にユーロ離脱熱が感染するのを恐れる。
 前世紀以来イタリアの中北部は産業化が進み、EU3位となっているのだが、イタリアの企業の40%は10人以下の小企業なのである。そしてナポリを含む南部の小都市などはマフィアの温床となっており、政界も見放した感じで総選挙ではポピュリスト「5つ星」が50%以上を獲得している。

ポピュリスト連立政権はオプティミスト
 新政権は経済成長を促すために200億ユーロの減税、新政策に800億ユーロの予算を予定しており、そしてフラットタックス(累進課税ではなく一律課税)により年間 500〜600億ユーロの減税となる。合わせて年1500億ユーロをどこから出せるのかという疑問が浮かぶ。そのうえ「5つ星」党首は、月780ユーロのベーシックインカムを国民に約束し、女性の定年を35年就労後57-58歳としている。2013年以来、財政赤字は雪だるま式に膨張し続け、2017年の政府債務額は2兆3千億ユーロ(GDP132%)にまで達している。そのうちの36%は外資が占めている。
 どう見ても新政権のオプティミズムを否定できない。さらに新政権は、アフリカ諸国から地中海を経てイタリア南部に流れ着く難民のうち50万人を近日中に強制退去またはEU諸国への割当を強要すると意気込む。今後、ギリシアの後、EU舞台はイタリアに移るよう。
 6月11日、イタリアとマルタ島の沖合に停泊した、難民629人(子供、妊婦も含む)を乗せたアマリウス号のイタリアへの入港を、内務相になったばかりのサルビーニ内相が拒否し、スペインが受け入れることになった。