黄色いベストの中には「マクロンの辞任」を叫ぶ者も。

シャンゼリゼを占拠したジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)(L’Union : 18-11-25)

 

 ガソリン・軽油の増税に抗議する黄色いベスト(gilet jaune)を着た庶民はフェイスブックなどで数十万人が連絡し合い11月17日、全国約2千カ所に30万人近くが結集、負傷者500人余を出し、子供を病院に連れて行く女性運転手に63歳の女性参加者がひかれ死亡。(若年層の失業率が40%の海外領土レユニオン島では全島が暴動状態に)。彼らは全国の道路や高速料金所、ガソリン貯蔵所入口まで封鎖し、ある地域の運送・流通業者は大きな打撃を受ける。3日目、地方のバイク運転手が巻き込まれ死亡。今までにない黄色いベスト運動は自然発生的に田舎や小さい町、交通機関のない遠距離郊外の住民が立ち上がった。ガソリンやディーゼル(軽油)価格を懐と相談しながら毎日通勤のため30㌔、50㌔、100㌔を走っている庶民だ。

 いつもの抗議運動との違いは、労組のようにトップに立つリーダーがいないことだ。従って政府も誰を相手に協議すべきか見当もつかない。ルイ16世時代アンシアン・レジームが中央集権化により中間媒体をなくし、庶民と中央の執政者間に空洞しかなかったように、今日の黄色いベストとマクロン大統領の間は空洞状態。政府のエコロジー政策優先のガソリン・軽油の増税と購買力低下が重なり怒りが爆発。市民の75%が黄色いベスト運動を支持している。

庶民を忘れた「金持ちの大統領」?

 マクロン大統領が「金持ちの大統領」(オランド前大統領に言わせると「金持ち、大金持ちの大統領」)というイメージは、就任早々に「富裕税」を廃止したことから始まる。そのかわりに80%の住民の住居税を段階的になくすか30%減額する(これにより市町村の予算が減り、かなりの市町村長が辞任する)。さらに昨年秋、一部の国道の制限速度を時速90kmから80kmに下げた。今までガソリンより安く、庶民が愛用するディーゼル車用の軽油を大幅に増税。毎日長距離走行を余儀なくされる地方住民や中小企業主のサイフに響く。過疎化が進む町村では病院から郵便局、幼稚園・小学校、薬局、パン屋までなくなっている。来年からの光熱費の値上がりを危惧する低所得者や失業者、定年生活者、子持ちのシングルマザーや父親。今日、庶民の3分の2は中古車で間に合わせているのに、大統領は彼らが低汚染車に買い替えれば4〜6千ユーロのお門違いの援助金をちらつかせる。そのうえ昨年秋から住居手当が5ユーロ減額されており、踏んだり蹴ったりの下層庶民痛めつけ政策。やっぱり数字だけで考えるテクノクラート大統領だったのだ。

 購買力の低下に苦しむ庶民に大統領はギブアンドテイク式に、来年から補聴器と義歯の医療費の健康保健負担分を大幅に増額するということや運転免許取得費用を下げるという代償措置で対応する。それで黄色いベストの怒りが静まるわけがない。大統領の小手先の対応策では収まらない「下のフランス」が立ち上がったのだ。2019年5月に行われる欧州議員選挙にそのままマリーン・ルペンの極右RN党に票が行きかねない。そしてポピュリスト勢力が勢いを増すことになりかねない。11月24-25日、全国で10万6千人、シャンゼリゼを8千人の黄色いベストがデモ、彼らは毎週土曜日シャンゼリゼでの抗議戦に出ると意気込む。ついに27日マクロン大統領は沈黙を破り、黄色いベストの怒りを理解しながらも「原発を50%にするのは2035年、そのため水・風・太陽熱発電を今の3〜5倍にし、燃料価格を変動式にし、3カ月毎に価格調整する」という対策を掲げ、黄色いベストの今すぐ必要な対応策要求に答えない。マクロン大統領への庶民の反発と恨みは深まる一方。