昨年、パリ市庁舎で開催された展示会 「メイド・イン・パリ」で 「Sプルサン」という会社名が印象に残った。19世紀からパリ市内で馬具用や皮革製品のバックルを作り続けている企業だ。今でもバックルをパリで製造?と興味をそそられ、さっそく電話してみると、「今は会社再建中でとりこんでいる」と言われ、約束通り年が明けてからの訪問となった。サンマルタン運河に近い商店通りに面した店は目立つショーウインドーもないひっそりとした佇まいだ。だが、中に入ると様々なバックルがショーケースに所狭しと並び、どっしりとした馬具用のバックルや金具に歴史の重みを感じた。 Sプルサン社の前身は1830年頃創業し (1891年から現住所)、1907年にプルサン氏が社長に。馬と馬車の連結金具や馬具金具を専門に製造し、パリの万博でも入賞するなど高い評価を得た。しかし、自動車の普及で主要製品を皮革製品のバックルに移行。最近までプルサン家4代目が経営していたが、業績が悪化して会社更生法が適用され、2016年12月に総合金具製造販売のAC.DISグループに買収された。 店とアトリエを案内してくれたのは、同グループからSプルサン社に販売責任者として派遣されてきたオルタンス・シャヴァニャックさん。現在、社員は事務1人と職人2人の計4人。店から奥へ行くと店の間口からは想像できないほどの広いアトリエ (店とともに500m2)がある。店からの通路とアトリエの壁は無数の棚で覆われ、バックルや工作用金型などが種類ごとに収納してある。126年続く古色あるアトリエだ。 同社のバックルは99%が錆びにくく強度のある真鍮で造られている高級品だ。現在では皮革製品用が6割、馬具関係が4割で、バックル、リング、留め金、飾り金具など製品は約1000種類。最近では重厚な馬具用金具を高級品メゾンがモードに所望する傾向があるそうだ。細い棒状あるいは平たい帯状の真鍮を工作機械で切ったり、曲げたり、丸めたりしてバックルの枠部分とピンの形を作る。その形状が同社のノウハウの要だ。しかも、ピンは一つ一つ手作業で枠にはめこむ。また、馬具金具で強度が要求されるリングや鐙 (あぶみ)などは溶接では弱いので鋳造される。仕上げは機械や手作業で研磨し、アンティークな風合い真鍮の地金(薄金色)のままかニッケル、シルバー、ゴールドなどのメッキ加工をする。溶接、鋳造、仕上げは外注だ。 販売は店舗と直接注文のみで、輸出は米国、欧州諸国などに15%ほど (日本へは他社ブランドで輸出)。主な顧客は高級ブランドだが、職人や個人客も店に来るそうだ。「取引の長い多数のクライアントのためにも、この会社を継続しなければならない」とシャヴァニャックさんは言う。しかし、悩みの種は2人しかいない職人の後継者と補充だ。このアトリエで2世紀近く引き継がれてきた職人芸が絶えないことを祈りたい。(し)
Copy and paste this URL into your WordPress site to embed
Copy and paste this code into your site to embed