第27回エトランジュ・フェスティバル「ジャンル映画の価値発見に貢献でき誇らしい」

 1993年にパリで産声をあげて以来、異彩を放ち続けるエトランジュ・フェスティバル。今年も愛すべき“奇妙な映画たち”を、大勢引き連れてやってくる!  第27回目の2021年は9月8日から19日まで開催。会場は例年通り、パリ1区のフォーラム・デ・ジマージュだ。気鋭の製作会社A24によるヴァルディマル・ヨハンソンのホラー『Lamb』や、園子温のハリウッド進出作『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』など、コンペには気になる作品も。フランス人SF作家のピエール・ボルダージュと英国の女性監督リン・ラムジー(『少年は残酷な弓を射る』『ビューティフル・デイ』)による「カルト・ブランシュ(白紙委任状/自由に上映作品を選んでもらうこと)」も、濃い作品が並んでいて楽しみだ。 コロナ禍も何のそので映画祭を牽引する名物ディレクター、フレデリック・タン氏に話を伺った。(聞き手 : 林瑞絵) -「エトランジュ・フェスティバル」はこれまで個性的なジャンル映画を積極的に紹介してきました。あらためて本映画祭が選出する作品の基準とはなんでしょうか。あなたにとって「エトランジュ(奇妙)」な映画とは、いかなるものですか。 タン氏)ジャンル映画がメインストリームに足を踏み入れるようになっても、エトランジュ・フェスティバルが紹介する作品の基準は変わりません。私たちの不意を突き、驚かせ、興奮させるものです。舗装され過ぎた道から飛び出し、新機軸を打ち出すような作品を期待しています。 – 今年の注目企画やお勧め作品を教えて下さい。タン氏)レトロスペクティブ「Atsushi Yamatoya L’Extravagant!常軌を逸した大和屋竺」です。大和屋は脚本家としても名高い映画人ですね。今回は日本国外で上映機会の少ない彼の監督作品(『裏切りの季節』『荒野のダッチワイフ』『毛の生えた拳銃』『愛欲の罠』)が紹介できることを誇りに思っています。また、フィリピンのエリック・マッティ、香港のソイ・チェン、韓国のシン・ジョンウォン、日本の園子温らの新作や、香港出身のベニー・チャンの遺作『怒火』、日本の堀貴秀のアニメなどもお勧めです。 – 今年は川島雄三監督の3作品(『女は二度生まれる』『雁の寺』『しとやかな獣』)の上映もありますね。今年上映される日本映画について、もう少しご紹介頂けますか。 タン氏)(外国人が抱く日本についてのクリシェと距離を置き) “礼儀正しさ”とは逆の顔も持ちうる日本社会について、独特の視線を通して描写できるシネアストたちを紹介したいとずっと考えていました。今回は世代は違えど、そのようなタイプの監督を紹介できて満足です。古い世代で言えば今回は大和屋と川島ですが、彼らは過ぎ去った時代の文化に対してかなり辛辣な視線を持っていたようです。 また、園子温はご存知の通り、エトランジュ・フェスティバルの重要な友人ですが、一作ごとに私たちを驚かせることをやめません。新作『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』はニコラス・ケイジら国際的なキャスティングで、映画ファンを喜ばせるでしょう。堀貴秀の『JUNK HEAD』は、おそらく私たちが長い間出会えなかったような美しく、実験的なストップモーションアニメ。マルク・キャロとジャン=ピエール・ジュネの初期の仕事も呼び起こさせます。今年はコンペティション部門にアメリカの偉大なクリエイター、フィル・ティペットの素晴らしいストップモーション作品『Mad God』があるのも嬉しい偶然。堀もティペットもアニメを媒介に、不穏だけれども驚きがある未来のヴィジョンを描いているのです。 – 近年、世界三大映画祭やアカデミー賞ではジャンル映画が重要な地位を占めています。先のカンヌ映画祭でもフレンチ・ホラーの『チタン』が、最高賞のパルムドールを獲得しました。その一方、エトランジュ・フェスティバルは積極的に早い時期から、ジャンル映画に特別な価値を見出してきました。有力映画祭でジャンル映画が名誉ある地位を占める最近の傾向についてはどう見ていますか。 タン氏)驚くことは何もありません。私たちは90年代初めに映画祭を立ち上げましたが、世界の有力映画祭は、当時「マージナルな映画」に興味を持っていなかったのです。他方、エトランジュ・フェスティバルは最初から、あまりに長い間隅に追いやられてきた映画や、映画史に光を当ててきました。私たちの映画祭がジャンル映画の価値の発見に貢献できたことを、当然誇らしく思っています。そして今、世界で最も名高い映画祭にジャンル映画が盗まれていくのを見るのは、それはある意味で私たちが願いうる最も適切な結果だと考えます。とはいえジャンル映画の隆盛は、単純に「流行の結果」であるのかどうか見極めないといけません。カンヌでパルムドールを獲得した『チタン』ですが、授賞式の壇上でジュリア・デュクルノーは「モンスターを受け入れてくれてありがとう」と言いました。権威ある国際映画祭が、長いスパンで本当にジャンル映画を受け入れるのかどうかを注視したいです。 – コロナ禍は映画業界全体に多大なインパクトを与えました。エトランジュ・フェスティバルではどのような影響がありましたか。 タン氏)幸運なことにさほど深刻な影響は受けていません。昨年は他の映画祭と同様に、観客の人数制限(最大60%)は避けられませんでしたが、映画祭そのものは成功しました。観客はこの映画祭を渇望していたので、存分に楽しんでくれたのです。パリ市やフォーラム・デ・ジマージュと協力し、衛生プロトコルも徹底しながらスムーズに開催することができました。今年は昨年の衛生プロトコルと基本的には同じですが、人数制限を設ける必要はなく、最大座席収容率は100%の予定です。 – 在仏日本人の映画ファンにメッセージをお願いします。 タン氏)昨今は日本映画という文化遺産が、以前に比べヨーロッパで上映されにくくなったように思えます。しかし、私たちエトランジュ・フェスティバルは、常に日本映画に特別な場所を用意するつもりです。まずは川島雄三や大和屋竺ら今年の素晴らしい作品を堪能して下さい。そして来年以降も引き続き、日本映画を通して大きな驚きを届けたいと思っています。ぜひ辛抱強く、楽しみに待っていて下さい。