ボルドー、奴隷貿易の歴史をたずねて。

ワインの産地として知られる町ボルドーは、17世紀に始まった大西洋奴隷貿易の時代には、奴隷船の出航数においてナントに次ぐ第二の都市であった。その回数は1686年から1837年の間に480回にまで及び、12万から15万人の黒人奴隷がアフリカ大陸の故郷からカリブ海やインド洋諸島の植民地に運び去られたとされる。 よく知られるように、フランスでこの大規模な非人間化の歴史(奴隷は文字通りの「物」として扱われた)の扱いがとりわけ議論されるようになったのは、それを「人道に反する罪」として承認するためのいわゆる「トビラ法」が2001年に制定されて以降のことだ。 その流れを受け2009年、ボルドー市のほぼ中心に位置するアキテーヌ博物館に、この町における奴隷貿易の歴史を概観できる展示が設けられた。ここでは奴隷制の記憶が、テーマによって分けられた4つの部屋のなかで、ヨーロッパ、アフリカ、カリブ海にまたがる複数の視点から捉えられ、提示されている。 実際に、美しい街並みが続くボルドーの風景にも奴隷貿易の跡は残っている。アキテーヌ博物館を出たら北上し、サンタンドレ教会を右手に見ながらペ・ベルラン広場通りを進むと、ほどなくしてア要塞Fort du Hâ(現・国立司法学院)が見えてくる。この建物は100年戦争終結後に防衛強化のためシャルル7世の命により建てられたが、19世紀初頭にナポレオンが奴隷制を復活させた時代には黒人たちを収容する監獄として使用された。この時期、植民地から大陸側のフランス領土に渡った黒人たちには、植民地行政からの特別な許可を持たない場合は収監後に強制送還が待ち受けていた。さらに、今度はア要塞からボルドーを縦断するガロンヌ川へと向かい、ルイ18世通りからさらに北上してみよう。そこからフェレール通りを曲がるとすぐにボルドー現代美術館がある。ここは、かつて植民地で生産されたコーヒーや砂糖などの商品を貯蔵していた倉庫をそのまま利用している。展示会などで訪れた際には、ぜひ建物の中の様子にも注目してほしい。 そして最後に、少し行きづらいが、現代美術館から見てガロンヌ川のちょうど対岸のあたりにある静かな公園に、2005年にハイチからボルドー市に送られた、ひとつの胸像が立っている。そのモデル、トゥーサン・ルヴェルチュールはハイチ独立を賭けて闘った元黒人奴隷の革命軍指導者であったが、1802年にナポレオンが派兵した軍によって捕縛された後にフランスへと送還され、ドゥー県ジュー要塞で亡くなった。マルティニークの作家エメ・セゼールが「ハイチの歴史の中心人物、そしておそらくはアンティル諸島の歴史の中心人物」と評したように、一国を超えた奴隷解放の歴史の象徴として今も語り継がれる人物だ。なお、彼とともにフランスに渡った家族のなかには、ボルドーに縁のある人物として、この町で生涯を終えた息子のイサクがいる。彼の生家があったフォンドデージュ通りには、2003年当時の市長アラン・ジュペのもとで、親子の名を示すプレートが掲げられた。こうしたモニュメントや建築物は、たとえささやかなものであれ、町と奴隷制の歴史的なつながりをかろうじて留めている。それらをたどることでこの町の、そしてこの国の、違った姿が見えてくるだろう。(須) ■ Musée d’Aquitaine アキテーヌ博物館 20 cours Pasteur 33000 Bordeaux 05.5601. 51 00 入館料 6.5€/3.5€ 9h-12h30/13h30-17h。月曜と祭日休。 トラムB線Musée d’Aquitaine駅。 ■ CAPC musée d’art contemporain de Bordeaux – Entrepôt ボルドー現代美術館。外壁に ENTREPÔTと書かれているのが目印。 7 rue Ferrère 33000 Bordeaux 05.5600.8150 入館料 6.5€ /3.5€ 11h-18h、月曜と祭日休。 トラムB線のCAPC駅。 C線Jardin Public駅。 ■Maison d’Isaac Louverture トゥーサン・ルーヴェルチュールの息子、 イサクと妻が住んだ家 : 44 rue de la Fondandège 33000 Bordeaux ■Buste de Toussaint Louverture トゥーサン・ルーヴェルチュールの胸像 Square Toussaint Louverture Quai de Queyries33100 Bordeaux 植物園 (Jardin Botanique)入口の向かい。 ■Office de tourisme de Bordeaux ボルドー観光局 : 12 cours du 30 Juillet 33000 Bordeaux 05.5600.6600 www.bordeaux-tourisme.com