防犯カメラが映した警察の暴力。警察官の映像流布論争のさなか。

 パリ17区の音楽スタジオで働く男性が、社屋内に侵入した警察官に暴力をふるわれる映像がネットで流れ、関係した4人の警察官らが停職処分となった。今週は月曜晩にも、パリ中心部で移民たちが眠るテントを乱暴に排除する警官隊のビデオが公表されたばかり。今、政府が可決させようとしている、警官の映像拡散を禁止する法案の審議の行方と、今後の政府の対応に注目が集まっている。 防犯カメラの映像  音楽プロデューサーのミシェル・ゼクレーさん(41)は、土曜日の晩、会社近くでパトカーとすれ違った時にマスクを着けていなかった。罰金を科されないよう社屋に入ったが、警察官3人がパトカーから降り社内に侵入、人種差別的な言葉を発しながら暴力をふるった(ゼクレーさんは黒人)。ゼクレーさんの助けを求める声を聞きつけ、階下のスタジオで録音していたミュージシャンたちが駆けつけ扉を開けると、警察官らは一旦は外へ出たものの、扉の隙間から催涙弾を屋内に投入。応援を要請し外から扉に向かって銃を構え、ゼクレーさんに外へ出るよう命じ、他のミュージシャンらを社内で捉えて暴行を加えた。 社内の防犯カメラと、隣人がカメラに収めた外での出来事がネットメディアLoopsiderによって広く流布された。警察官らは「ゼクレーさんが麻薬所持」「警官の武器を盗もうとした」ために取り調べを行ったと記述していたが、ビデオではそのような行為は認められなかった。ゼクレーさんは「ビデオがあって幸運だった」とメディアに語った。警察官ら4人は4ヵ月の停職処分となり、取り調べが行われている。 政府の新しい治安法 Sécurité Globale  折しも政府は、新しく治安を強化するための「グローバル・セキュリティ(治安法)」の一環として、「勤務中の警察官を確定できる映像を、肉体的、精神的に苦痛を与えるために拡散することを禁じる」法案を通そうとしている最中だ。違反した場合は禁錮1年、罰金4万5千ユーロが科される。国民議会での審議初日から連日、人権団体や野党、メディアによる抗議デモが行われている。  今週月曜には、パリ中心のレピュブリック広場で移民たちをテントを乱暴に排除する警察のビデオが流れたばかり。ベナラ事件、セドリック・シュヴィアさんが取り調べ中に地面に抑えられ窒息死した事件など、ビデオがあったからこそ、真相があきらかになった事件が多発している。 新法案は政府が主張する「映像によって警察官が顔や番号で特定され、暴行を受けることを防ぐ」ことよりも、警察の暴力を隠すための法案と解釈されても仕方がないだろう。