EU離脱後の在英外国人と在EU英国人はどうなるのか。

 昨年6月23 日の国民投票でEU離脱が決まったものの、11月4日付ル・モンド紙によると、11月3日、ロンドンの高等法院は英国政府がEUからの離脱協議を始めるには議会の承認が必要との判決を下した。メイ首相は民意を実行に移すためで「議会の承認は不要」と主張するが、3月末からEU27カ国との協議を開始する予定だった首相は不利な状況に追い込まれている。そのうえロジャース駐EU大使が「EU離脱に対する英政府の不明確な姿勢」を批判し、1月3日に辞表を出したのでますますEU離脱が迷路に迷い込みそうだ。

 英国のEU離脱が実現すれば、英国に長く定住している多分野のEU諸国出身者330万人にのぼる在住者だけでなく、EU諸国在住の120万人におよぶ英国人はどうなるのか。ル・モンド紙は「ブレグジットの人質」と題し、英国で暮らす外国人の将来への懸念や不安を報告している。メイ首相はEU離脱に際し、加盟国27カ国との協議に在英EU市民の滞在条件を、在EU英国人の滞在条件を有利にするための切り札に使うのではないかとみられている。

 現在、英国にはポーランド人80万人、イタリア人60 万人、フランス人30万人、ドイツ人15万人…と合わせてEU市民は約330万人が在住し、逆に英国人はEU諸国に約120 万人(スペイン30万人、フランス18万人…)が住み着いている。外国人に開放的で寛容、エネルギーあふれる英国に大志を抱いて渡英したシティの金融関係者、エンジニアや多分野の研究者、エラスムスEU交換留学生、飲食業者の中には「この国にだまされた」と幻滅する者が多い。
 78 年から高校のフランス語の教師として滞在する仏定年女性(77)は、長い間の英国との「ラブ・ストーリー」は突如「昨年6月24日朝、悲劇的に断絶され、私の英国が取り上げられてしまった。英国人らを怨んではいないが、ボリス・ジョンソン元ロンドン市長みたいな政治家が権力欲しさに民主主義を口実にして仕組んだ」と嘆く。シティで働くドイツ人男性は「自分の子供が英国人児童に”ナチ”と呼ばれた」という。またあるエンジニアは息子にフランス語で話していたら周囲のイギリス人があまりいい顔をしなかった、という想像しがたい場面に出会っているという。ちょうど国民投票がトランプ現象を伴ったように。

 EU離脱キャンペーンは、ポーランド人やルーマニア人、ブルガリア人など東欧系労働者が英国の労働市場を荒らし、社会保障まで利用している、と東欧人ヘイト感情を煽った。昨年10月末にフィナンシャル・タイムズ紙が発表したアンケートによると、EU出身在住者の25%は英国に「見捨てられた」と感じており、39%は「英国を去りたい」と言っている。今まではEU市民として問題なく滞在できたのだが、EU離脱が実現すれば滞在許可が制限されるのを懸念し、昨年7月以後、一挙に10万人の外国人が永住権取得の申請をしているという。

 EU離脱を選んだ52%の保守派投票者は、今日のグローバル化に逆行する欧州との断絶で英国人と欧州人との関係がどうなるか予想しただろうか。