オモニエは、服役者の過激化を防げるか。

オモニエ(aumonier)とは、学校や病院、養護施設、軍隊、刑務所など公共施設に配属されるカトリックなら神父のこと。その歴史は長く、最初に7世紀のベネディクトII世が「貧者への施し」(aumonerie)をなして以来存続している。以前ギロチンで処刑される前に、オモニエ(神父)が死を前にした死刑囚に祈祷してくれたものだ。戦場でなら死が間近な負傷兵に十字架を掲げてあの世に送り出した。現在、7宗教のオモニエ約1200人がおり、カトリック700人、プロテスタント350人、ユダヤ教70人、正教会24人、イスラム教のイマーム150人、その他(仏教、エホバの証人)32人。

全国にイマームは1500〜2000人いるとみられるが、その中の70%近くはボランティアだ。月収はモスクを運営するアソシエーションによる礼金(400€〜700€)で、副業を持つイマームが多い。しかしイマームとしての資格を持っている者は少ない。出身国別に見るとモロッコ人40 %、アルジェリア人24%、トルコ人15%、フランス人9%、チュニジア人6%、サブアフリカ人6%。彼らの 半数近くはフランス語を解さずアラビア語で礼拝を行う。出身国から資金が送られてくるヒモ付きのイマームが多く、とくにサウジアラビアがモスクの建設などに出資している。現在、全国に2200のモスクや礼拝所があるがムスリム人口の割合からして4000は必要とされ、モスクの増設が叫ばれている。

刑務所内でもムスリム服役者が増えている今日、全服役者数6万8000人のうちラマダン(1カ月の絶食)を実行するムスリム服役者は約1万8300人。服役者の中には元強盗犯や麻薬の元ディーラーとして入所する者が多く、釈放時にはイスラム過激派となっている場合が多い。服役者のあいだで幅をきかせ説得力のあるボスタイプのテロ容疑者は、若い仲間にイスラム聖戦(ジハード)思想を吹き込み洗脳もできる。2015年パリの同時多発テロ犯アメディ・クリバリもクアチ兄弟も2005年にフルリ・メロジス刑務所で服役中に、パリのアメリカ大使館襲撃計画の容疑者として服役中のジャメル・ベガリに洗脳され、保釈時にはジハードを信じるテロ戦士になっていたとみられる。

現在、全国に250の刑務所があるが、イマームであるオモニエは150人に過ぎない。拘置所で悩み迷う服役者、とくにムスリム環境で生まれ育った服役者が過激派の先輩からジハード思想を吹き込まれる前に、コーランの教えを正しく説教できるイマーム、精神的カウンセラーとなれるオモニエがますます必要となってきている。筆者のBLOGの中の「受刑者のイスラム過激化を防ぐための対話」(16-1-26)は、とくにシリアから戻ってきた若い青年やテロ容疑者、彼らに感化されそうな服役者を対象とし、数カ月にわたって精神・心理分析医、カウンセラーとの対話により過激思想から脱皮させることに努めている。

しかし2016年1月に開始されたこの試みはポジティブな成果が少なく、テロ容疑者の扱いに刑務所は頭を抱える。彼らが他の服役者に悪影響を与えないように一カ所に集めるべきだという意見と、テロを考えている服役者同士を一緒にさせることほど危険なことはなく、彼ら同士で新たな大規模なテロを計画しかねないので、刑務所内での彼ら同士の接触を避けるべきだという意見に分かれている。

ル・モンド紙(16-9-9)によれば、現在テロ関係の疑いで拘留中の服役者は315人いる。一般犯罪服役者の中で、イスラム過激化またはその傾向にある服役者は約1千人にのぼるという。とくにイル・ド・フランス地域の刑務所には過激化した服役者が多く、過剰収容数と看守・職員不足から彼らへの対処法を改善する余裕などはほとんどないようだ。