日本の銀幕、発見の60年

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 シネマテーク・フランセーズの映画博物館内寄贈ギャラリーで、フランスに渡った日本映画に関する展示「日本の銀幕、発見の60年」が開催中だ。同館所蔵のデッサン、ポスター、手紙、写真、宣材ら170の関連資料を展示する。『地獄門』『雨月物語』『影武者』に登場した衣装、溝口健二作品の美術担当だった水谷浩氏のオリジナル・デッサンなど貴重な展示も多い。衣笠貞之助監督が寄贈したという溝口監督のデスマスクまであった

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『地獄門』『雨月物語』『影武者』に登場した衣装たち。

 本展示からはシネマテークの創始者アンリ・ラングロワが、日本映画に与えた影響も浮かび上がる。1951年に『羅生門』でベネチア映画祭金獅子賞を受賞して以来、ラングロワは一貫して黒澤作品の紹介に力を注いできた。ふたりは生涯固い友情で結ばれ、ラングロワが亡くなった際、黒澤はシネマテークに手紙を送っている。その中で黒澤初のカラー映画『どですかでん』は、カラー撮影を促したラングロワの後押しで撮られたことが綴られている。

 シネマテークは1963年・71年・84年に大規模な日本映画の回顧上映を実施した。この時に活躍したのが配給者の川喜多かしこさんと、通訳・コーディネーターのヒロコ・ゴヴァースさんだ。彼女たちの存在は、「配給者」や「通訳」といった肩書き以上のものである。前者はラングロワとの確固たる信頼関係を通し、日仏の映画文化交流の礎を築いた。後者は一流映画祭などにおける通訳はもちろん、川喜多さんの右腕としてパリを基点に邦画紹介に奔走した。

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川喜多かしこさん(右)とヒロコ・ゴヴァースさん(左)

     今回の展示はゴヴァースさんの娘さんであるゆり子さんが寄贈したコレクションが重要な位置を占める。とりわけ寺山修司率いる天井桟敷のフランス公演をサポートしたゴヴァースさんは、寺山作品の関連資料を数多く所有していた。フランスでも多大な足跡を残した寺山だが、現在彼の映画作品が再上映される機会は少なめである。比類なき個性を持つ彼の作品群は、現在のフランスの映画ファンにもっとアピールできるはずだろう。これらの寄贈資料は今後の寺山研究の足がかりにもなってほしい。

 今回シネマテークが映画の裏方の仕事に敬意を表した意義は大きい。川喜多さんとゴヴァースさんはすでに鬼籍に入ったが、展示の写真や映像を通し、彼女たちの在りし日の姿を垣間みられるのは嬉しい体験だ。海外に渡航するのが困難な時代から、海を越え一流映画人の傍らで活躍していた彼女たちの姿は眩しい。映画史というのは極めて個人的な映画への情熱と不断の努力が紡いでゆくものでもあるだろう。私たちは今日も、映画を愛した彼女たちが整えた道の先を歩かせてもらっている。

 全体の展示に関して言えば、邦画発見の歴史の流れがわかりやすく整理された記述がもっとあればよいと思った。だがそれは識者たちによる解説ビデオで補完されている。発見の60年を経て、フランスにおける邦画はいかなる歴史を刻んでゆくのだろう。素晴らしき影の立役者たちに思いを馳せながら、今後の映画史の更新に期待をしたい。(瑞)

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デッサン、ポスター、手紙、写真、宣材ら170の関連資料を展示。

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寺山修司作品の関連資料も揃っている。

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出た!溝口健二監督のデスマスク。

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日仏スターの豪華なツーショット。ジェラール・フィリップとデコちゃんこと高峰秀子さん。

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黒澤監督がシネマテークに送った手紙も。

L’Écran japonais 60 ans de découvertes

2017年6月25日まで開催(火休)
Musée de La Cinémathèque française
 (Galerie des Donateurs)
51 rue de Bercy 75012 Paris
地下鉄ベルシー駅からは徒歩7分
5 € / 割引 4 € /18歳未満2,5 €


Cinémathèque française

Adresse : 51 rue de Bercy, 75012 Paris , France
アクセス : Bercy
URL : www.cinematheque.fr/