大福を、毎日96個…。

© Martin de La Motte

淡い桃色の招待状には「Maison du Mochi」と書かれ、小さなバラの蕾がのせられた丸い餅の写真があった。トゥール近郊でモチ工房を開いたマチルダ・モットさんからのカードだった。マチルダさんに新製品を見せてもらいに行く。渡された白い箱を開けると、ピスタチオ、バラ、アーモンド、ベルガモット…、マカロンのようにバリエーションを与えられた、未知の〈フレンチ大福〉が8つ、並んでいた。

両親の仕事の関係でアメリカで生まれ、2歳からフランスで育ったマチルダさんはスコットランドで美術史を修めた。ことの始まりは2011年、エンジニアの夫の日本赴任だった。海外赴任は希望していたが、想定外の国。夫も自分も日本についての予備知識がないまま、六本木での暮らしが始まった。

シュークリーム、モンブラン、甘いものを探しては試す日々。でも日本の伝統的菓子店には、独特の構えや、のれんなどに気後れして、なかなか入れなかった。「フランスのパティスリーは、ウィンドー華やかに店の外にいる人の目を誘うけれど、和菓子店はどこか隠された、秘密めいた場所に見えた。フランスのお菓子やさんとは店のあり方が逆だと思いました」。が、ある日、日本語の先生におすすめの和菓子店を教わり、勇気をふるってのれんをくぐる。そこで食べた大福…。感触、味、その「佇まい」にさえに驚いた。「半透明の白い餅を通して、なかの餡の色がほんのり見える。クラゲを連想しました。西洋のお菓子が色や形状で演出されているのと対称的だと思いました」。

フランスに帰国し、昨年春メゾン・デュ・モチ社を設立、秋から通信販売で大福の販売を始めた。今は毎日9時から午後3時15分まで大福作り、午後4時の集荷に間に合うように郵便局へ行き、商品を発送した後、工房で次の日の下ごしらえや、配送の住所確認をする日々を送っている。 

好評なのは、抹茶、あずき、ゆず、ゴマ大福。マチルダさんオリジナルのフレーバーでは、シトロン、ベルガモットが人気だ。都市部からの注文が多いだろうと想像していたが、フランス全域から注文が舞い込む。和菓子初心者には、モチの感触は「フラン」や、オリエンタル菓子の「ルクム」に似ているなどと、知っている菓子と比べてから食べてもらう。包装もフランス菓子っぽいデザインで親しみやすくした。

1日に96個の大福を作る(8個入りを12箱分)。今は全工程が手作業だが、器具や機械も使って1日400個を作れるようにするのが当面の目標だ。個人の顧客のほかにティーサロンや食料品店などにも卸したい。

「私は日本語も話さないし、和菓子の匠だとも思ってない」と100万ドルの笑顔で言いながら、のびやかに自分なりの大福ワールドを展開する。日本でも進化し、グローバル化する和菓子。こんな彼女の自由さが、新しい和菓子の未来を切り開くきっかけになるのかもしれない。春に向けて、桜の葉の香りのエッセンスを入手するべく、業者を探しているところだそうだ。(集)