『 Paterson』たゆたう時間のなかのポエジー。

朝陽の差し込むベッドで抱き合って寝ている男と女。目覚まし時計で時間を確かめ起き上がる男。その彼の朝のしきたりを追う。そこに男の声がオフで被って、いま擦ったマッチが世界最高のマッチであるという話が入る。男の名前はパターソン、ニュージャージー州の小都市、パターソンのバス・ドライバーだ。彼の一日、なんの変哲もない日常、バスの乗降客や街行く人たちが風景として過ぎて行く。昼休みは滝の見える公園で彼女が用意してくれたランチ・ボックスを開く。ハウスワイフの彼女は、白黒のストライプやリングの模様に懲りまくっていて、家のインテリアから自分のドレス、果てはお得意のカップ・ケーキの飾りまで、この意匠を凝らす。ランチ・ボックスの中のカップケーキを目にした時のパターソンの表情に二人の関係が滲(にじ)む。パターソンは詩人でもある。常に手帳と鉛筆を携行し、心に去来したことを詩に書き留めている。彼女と夕飯をすませたあと、飼い犬のブルドッグの散歩に出て近所のバーのカウンターでビールを一杯ひっかけるのも習慣だ。映画はこうして月曜の朝から次の月曜の朝までの7日間のパターソンの日常を描く。毎日同じことの繰り返しのようでいて、少しずつ違う、ちょっとした出会いもある、小さな事件も起きる。この1週間の最大の悲劇は土曜の夜に起きた。パターソンにとってはかなり致命的な出来事に思えたが彼は感情を押し殺しているかに見える。そんな彼を救ったのが日曜の朝の公園での日本から来た男性との出会いだった…。

『Paterson』は心に優しい映画、癒やされる。ジム・ジャームッシュ監督、真骨頂発揮である。たゆたう時間の中に見つけるポエジー。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『ダウン・バイ・ロー』の頃のオフ・ビート感に円熟味が加わった。

主演のアダム・ドライヴァーは、かってのジョン・ルーリー、トム・ウェイツを引き継ぐ路線で、無表情の中の表情で魅力を発揮。今年のカンヌ映画祭コンペ部門出品作、パルムドールをあげたかった映画だ。(吉)